ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

だから無駄な抵抗はやめて

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「ひ……っ!」

自身の体すれすれを、それこそ耳の傍を通り過ぎた時には「ピウッ」とナイフの刃が空気を切り裂く音さえ聞こえたであろう状況に、彼は小さく悲鳴を上げながら体を竦ませた。そうするしかできなかった。彼の身体能力では、逃げ出すことさえままならないんだ。

そんな中で彼の膝が体を支えきれなくなって崩れ落ちるようにして地面に座り込んでいくのを僕は見守りながら、ナイフを引き戻した。もっとも、実はナイフは最初に手を突き出した時には左手に持ち替えていて、後はただ僕の<貫手>を繰り出していただけなんだけどね。ナイフの刃が空気を切り裂いていたように思えたのも、僕の指先のそれだ。彼が予想外の動きをしたとしてもナイフで傷付かないようにそうしたんだ。僕の貫手が当たっただけでも大変な怪我をする可能性はあるけど、少なくともナイフと違って触れる瞬間に脱力して威力を殺すことはできるから。

それでも彼にとってはナイフを突きつけられていたようにしか思えなかっただろうな。

しかも自分がまったく反応できない速度で。

これだけの力の差を見せつけられればもう抵抗する気力も失せるだろう。今の時点では。『喉元過ぎれば熱さ忘れる』で時間が経てば逆に憤りを覚えるとしても、それも『時間が経てば』だし。

その上で僕は、

「君では僕には傷一つ付けることはできない。だから無駄な抵抗はやめて、一緒に食事でもどう?」

と、地面に座り込んだ彼に手を差し伸べながら問い掛けた。

「あ……ああ……」

青褪めた顔で彼も応える。そして差し出した手を僕は握って彼を立たせた。でも、足に力が入ってないから、ガクガクと震えている。無理もない。

そこに、

「やあ。また会ったね」

セルゲイが悠里ユーリ安和アンナを連れて近付いてきた。穏やかな笑顔を浮かべているけれど、ムジカにとってはそれこそ生きた心地がしなかっただろうな。

それでも僕達が彼を食事に誘ったことに他意はない。ゆっくりと話をしたかっただけだ。

でも彼は、自分の胸を手で握り締めるようにしながら、勇気を振り絞り、

「俺の弟達も一緒じゃダメか……?」

と問い掛けてくる。何か思うところがあったんだろう。

これに対して僕もセルゲイも、

「うん、いいよ」

「もちろん」

笑顔で応えた。

そうして彼の<弟達>を迎えに行く。

そこは、いわゆる<スラム街>だった。それこそ廃材を雑に組み合わせてでっちあげただけの、日本のホームレスが作る<段ボールハウス>よりも酷いかもしれない出来の<小屋のようなもの>が立ち並ぶ光景が広がっていた。

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