ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

力で問題を解決しようとする行い

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『君じゃ絶対に勝てない相手だよ。僕達がその気になれば、君は自分が死んだことにも気付けないうちに命を落とすことになるだろうね』

この言い方では、典型的な、

<力で問題を解決しようとする行い>

ではあるんだけど、僕の実際の望みはそこにはない。これはただの<きっかけ>だ。彼に対して、

『自分にとってどうすることが一番の利になるか?』

というのを考えてもらうための。

戦争を終了させるための<停戦協定>も、要するに、

『戦争を続けない方が自分達の利になる』

と考えるからこそ結ばれるものだしね。徹底的に暴力での解決に頼るなら、停戦協定なんか結ぶ必要もないし、結ぶとしてもそれは相手を油断させるための<ブラフ>でしかないだろう。

以前にも言ったように、

『暴力が問題を解決する』

わけじゃない。どこまでも暴力に頼るならそれは、

『どちらかが完全に消滅する』

まで終わらない。どこかの段階で暴力から<話し合い>に移行しなければそうなるだけだ。そして『敵対する相手が完全に消滅する』なんてことを実現するのは途轍もなく難しい。何しろ、それを実行しようとしている間にもその行いに対する嫌悪や不信感や危機感が、第三者の立場の者達の間にも広がってくるからね。

実際に、つい最近の出来事でもそれは確認できるよね。直に戦争を行っている二者間だけの問題じゃなくなっている。双方に支援しようと動く国や団体が現れて、利害関係はますます複雑になっていく。その状態で相手をこの世から完全に消滅させたりしたら、そんな国は周囲の国にとって<危険な脅威>になるんじゃないの? 次の衝突の火種になるんじゃないの?

『自分達の正義のために他所の国をこの世から消滅させる』

なんてことを実行する国が本当に信頼できる? いつ、その力を他に向けるかも分からないのに?

だから僕も、ムジカを力で制圧するつもりはないんだ。彼の力じゃ僕達に傷を負わせることさえままならない。彼は僕達にとっては<危険>や<脅威>にさえならない。

ただ、彼にとって分かりやすく<力の差>を認識してもらう必要は確かにある。そうじゃなければ彼は自分が置かれている状況を理解できないだろう。そのための<ブラフ>なんだ。

それでも彼は選択できなかった。頭が混乱しているというのもあるんだと思う。こうなるとさすがに、実際の僕の力を見せる必要も出てくる。

だけど彼を傷付ける必要はまだない。彼のナイフを手に、僕はそれを彼に向けて繰り出した。体のすれすれを、かろうじて彼にも認識できる速度でね。

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