ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

命として生まれることを否定するには

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『生きる』というのは、本当につらくて苦しいことの連続だ。それが事実であることを否定はしない。マデュー達やムジカを見ていると思い知らされるよ。

だから人間の中には<非出生主義>なるものを掲げるようになった者もいるらしいね。これも一種の<カルト宗教>だと思う。

『生まれてこなければつらいことも苦しいことも経験せずに済む』

という考え方か。だけど僕はそれについては肯定的に考えられないんだ。なにしろその考え方は最終的にこの宇宙そのものを否定しなければ成立しない理屈だからね。

非出生主義を唱える人間は、人間として生まれてこなければそれでいいの? それとも『生まれてくる』ことそのものを否定したいの?

『人間として生まれてこなければいい』と考えてるんだとしても、人間以外の生き物として生まれてきても結局はつらくて苦しいことは当たり前にあるんだよ? 生きているなら当然のことだから。

それじゃ、『生まれてくること自体なければ?』と考えればどうだろう? けれどそちらも、<生命>というもの自体が完全になくなってしまわない限り、何らかの形で<命>として生を受けることはあるよね? そして、今の宇宙そのものが<生命>という現象を発生させている以上、あくまでも<宇宙という現象>の一部なんだよ。生きるということ自体が。

だから命として生まれることを否定するには、この宇宙そのものを否定するしかない。

それは随分と大きく出たものだね? たかが人間風情が宇宙そのものを否定するなんてさ。自分がつらく苦しいのを誰かの所為にしたいがために、自分以外の生命についても宇宙もろとも否定したいんだ? その考え方こそが自分を苦しめている不条理の根幹になっているとは思わないの?

『自分が救われるために自分以外すべて苦しめて構わない』

なんて、ムジカを犯罪に利用している大人達の考え方そのものだと思うけどな。

マデュー達やムジカも、確かに生まれてこなければ苦しむこともなかったかもしれない。でもね、だからと言って<命>そのものを否定する権利は誰にもないんだよ。人間にも、吸血鬼にも。

逃げるのは構わない。現実逃避も好きにすればいい。けれど、それで他者を巻き添えにするのは違う。他者にも自分の現実逃避を押し付けようとするのは違う。それは犯罪者の考え方だ。自分自身が、自分を苦しめる<嫌なこと>になるというのは、途轍もない自己矛盾だよね。

自分自身の生を否定されて嬉しい人間なんてそんなにいないはずだけどな。

不幸だからと自分が<嫌なこと><不快なこと>をばらまく側になるなんて、どこまで自分勝手なんだろう。

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