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第五幕

喉元過ぎれば熱さ忘れる

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僕達は、

『問題を解決する』

ためにムジカに干渉したわけじゃない。この国が抱える問題は僕達が吸血鬼としての力を用いて大暴れしたところで何も解決しない。この国に住む人間自身が意識を変えない限りは変わらないんだ。

大変な災害のようなことを引き起こしたところで、それで人間の意識が変わるわけじゃないよ。それについては人間自身が表してるじゃないか。

『喉元過ぎれば熱さ忘れる』

ってさ。

日本が世界的にも稀有な精神性を獲得したのは、日本という国そのものがこの地上から消滅するかもしれないような大災害や大変な危機があったからなの? そうじゃないよね?

外国の宣教師が日本に来た時に、

『日本では子供がとても大切にされている』

と驚いたという話もあったんじゃないかな。僕自身も悠里ユーリ安和アンナ椿つばきを迎えて<親>になって、本当に実感したよ。

『この世に生まれてきたことを喜べないような幼少期を送らされた人間は、他者を敬うことも難しくなる』

ってね。

『できなくなる』とは言わないよ。現に、実の両親に家畜のように扱われてきたアオが今では悠里や安和や椿のことをとても敬ってるからね。それができるようになったからね。

ただ、そうなれるまでには大変な紆余曲折があったことも事実だと思う。彼女自身の努力だけではどうにもならないこともいくつもあったはずだしね。彼女が今の彼女になれなかった可能性はとても高いんだよ。何より、

『どうすればいいのか?』

というのを知らないまま望ましい自分になることなんて、どうやってするつもり?

行き当たりばったりで目先のことばかり考えててそれで今の彼女になれる確率なんて、それこそ砂漠の砂がただ風に吹かれているだけで名画を緻密に再現するような確率の話じゃないかな。

だから何らかの指標が示されなきゃ難しいし、何より、

『相手を人間として扱い敬う』

なんてことが手本も示されずに言葉で説明されただけで理解できる実践できるようになる人間がどれだけいると言うの? これだけ道徳や礼節について日常的にも説明されているような社会でさえ、

『相手を敬うなんてどうすればいいのか分からない』

と口にする人間は少なくないよね? 言葉を学ぶのと共に実際の振る舞いとして手本を示してもらうことでそれを『真似ぶ』形で『学ぶ』んじゃないの? 日本の場合はそれが実践されてきたことが多かったのかもしれない。

そんな印象は確かにある。この光景が、件の宣教師をして『日本では子供がとても大切にされている』という感想になったのかもね。

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