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第五幕

親の勝手で子供をこの世に送り出したという現実

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人間の親が陥りやすい、

『生んでやった』

『育ててやってる』

という考え方自体が、本来は『狡い』それなんだ。

だってそうだよね? 僕もこれまでも何度も語ってきたけど、子供をこの世に送り出すのは親の勝手なんだ。子供自身に対して、

『生んでいい?』

『この世に送り出していい?』

と確認を取ったという事実はない。僕達吸血鬼でさえそんなことはできない。僕自身、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきに対して、事前の確認をしてないし、承諾をもらったという事実は存在しないんだよ。もしそんなことができるなら、

『ダンピールとして、人間と同じ生き方はできない』

なんてことを承諾してくれると思う? しかも、悠里と安和はダンピールとして生まれ、でも椿は普通の人間として生まれた。こんな<不公平>が生じる可能性を受け入れてくれると思う?

だからどんなにオカルトで誤魔化そうとしても、

<親の勝手で子供をこの世に送り出したという現実>

は覆らないんだ。それなのに、自分が勝手にこの世に送り出しておいて『育ててやってる』なんて言われて本当に納得できるの? 納得できる人間はそれでいいとしても、全員が納得できるわけじゃないよね? なのにその考え方を押し付けようとする。これが『狡くない』と言うなら、なにが『狡い』って言うのかな?

そして親がそんな風に<狡い考え>を子供に押し付けようとしてて、それで<狡い人間>に育たないとなぜ考えられるの? 人間の親が捨てられない『生んでやった』『育ててやった』という狡い考えが存在する限りは、

<狡い人間こそが得をする在り方>

がなくなることはないと思うよ? どんなに理想的な社会制度を作り上げても、その中で狡いことをする人間はいなくならないだろうし、狡いことをする人間がいる限りは、それを真似ようとする人間もいなくならないだろうね。

どこまでも、人間自身が<狡い人間こそが得をする在り方>を否定し改めていかないと、形だけいくら整えても無駄なんだ。

だから僕もアオもさくらも、『生んでやった』『育ててやった』という狡い考え方をしないし、子供達に示さない。自分の勝手で子供達をこの世に送り出したんだから、子供達自身が自らの足で歩いていけるようになるまで丁寧に対処するだけなんだよ。僕が安和に対して、

『親の言ってることが正しいんだから歯向かうな。異議を唱えるな』

的な言い方をしないのもそれなんだ。僕の勝手でこの世に送り出しておいて、

『納得できないことについても疑問を持つな』

なんて言ったら、それこそ『狡い』だけだからね。

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