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第五幕
魔王を討ち倒した後の勇者の扱い
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その後、結局、予定を十日遅れて合流した父と三人で、僕達はさらに移動を始めた。この時の僕は、それこそ魂が抜けたような呆然とした様子だったと思う。
感情のやり場が見付けられなくて、心を麻痺させることで考えないようにしてたとでも言うべきかな。
僕があの時、その場にいた人間達を粉々に<破壊>した方が、この話を聞いている者にとっては溜飲が下がったかもしれない。だけどそんなのは<問題の解決>には何の役にも立たない。だって同じようなことが他でも起こってただろうから。そういうすべてを僕が圧倒的な力で薙ぎ払っていったとして、それで人間が悔い改めると本当に思う?
それどころか、人間にとって僕は途轍もない脅威となって、それを排除するためにさらに手段を講じようとするだけだよね。
<途方もない力で悪を討ち倒した超常の存在>
を人間がどう認識するか、
<魔王を討ち倒した後の勇者の扱い>
みたいなことを想像すれば分かると思うけど?
ううん。実際に人間は、僕達吸血鬼を恐れたからこそ、
<核の炎による吸血鬼の滅却>
を目的の一つとして核兵器を使ったんだ。もちろんその目的は表には出てきていないけど、それが事実であることは、開発に協力した吸血鬼自身の口からも語られている。
吸血鬼自身が、自分達の不死性を確認したくて、
『吸血鬼に核兵器が有効か?』
というのを確かめてみたくて、開発に協力したんだよ。吸血鬼にも、そういう者はいる。
人間を一方的に責められるような存在じゃないんだ。吸血鬼も。
当時の僕は幼くて、未熟で、無知で、物事をいろいろな角度から見るということができてなかった。できていなかったから、目の前の事象に感情を爆発させることしかできなかった。
あの場にいた人間全員が、マデュー達をむごたらしく殺したことを是認していたとは限らなかったのにね。実際、後で知った話だけど、その部隊にいた人間の中には今回の行いについて訴えようとして、でも逆に命を奪われそうになって身を隠して生きることになった者もいたそうだ。
そういう人間も確かにいたんだよ。なのに僕は、<人間>というだけで皆殺しにしようと考えた。
それは本当に正しいことなの? 一部の誰かの留飲を下げることが本当に<正しい行い>なの?
違うよね?
加えて、マデュー達に関わっていなければ、そんな危険も生じなかった。僕自身もあんな思いをせずに済んだ。
これは紛れもない事実なんだ。
だけど、僕のその話を聞いた安和が、
「パパは、もしまた同じことがあったら、放っておくの……?」
と尋ねてきたことについては、
「ううん。たぶん、マデュー達を助けようとするだろうね。ただ、どんな結果になったとしてもそれを受け止める覚悟が、今の僕にはあるというだけだ」
そう応えたのだった。
感情のやり場が見付けられなくて、心を麻痺させることで考えないようにしてたとでも言うべきかな。
僕があの時、その場にいた人間達を粉々に<破壊>した方が、この話を聞いている者にとっては溜飲が下がったかもしれない。だけどそんなのは<問題の解決>には何の役にも立たない。だって同じようなことが他でも起こってただろうから。そういうすべてを僕が圧倒的な力で薙ぎ払っていったとして、それで人間が悔い改めると本当に思う?
それどころか、人間にとって僕は途轍もない脅威となって、それを排除するためにさらに手段を講じようとするだけだよね。
<途方もない力で悪を討ち倒した超常の存在>
を人間がどう認識するか、
<魔王を討ち倒した後の勇者の扱い>
みたいなことを想像すれば分かると思うけど?
ううん。実際に人間は、僕達吸血鬼を恐れたからこそ、
<核の炎による吸血鬼の滅却>
を目的の一つとして核兵器を使ったんだ。もちろんその目的は表には出てきていないけど、それが事実であることは、開発に協力した吸血鬼自身の口からも語られている。
吸血鬼自身が、自分達の不死性を確認したくて、
『吸血鬼に核兵器が有効か?』
というのを確かめてみたくて、開発に協力したんだよ。吸血鬼にも、そういう者はいる。
人間を一方的に責められるような存在じゃないんだ。吸血鬼も。
当時の僕は幼くて、未熟で、無知で、物事をいろいろな角度から見るということができてなかった。できていなかったから、目の前の事象に感情を爆発させることしかできなかった。
あの場にいた人間全員が、マデュー達をむごたらしく殺したことを是認していたとは限らなかったのにね。実際、後で知った話だけど、その部隊にいた人間の中には今回の行いについて訴えようとして、でも逆に命を奪われそうになって身を隠して生きることになった者もいたそうだ。
そういう人間も確かにいたんだよ。なのに僕は、<人間>というだけで皆殺しにしようと考えた。
それは本当に正しいことなの? 一部の誰かの留飲を下げることが本当に<正しい行い>なの?
違うよね?
加えて、マデュー達に関わっていなければ、そんな危険も生じなかった。僕自身もあんな思いをせずに済んだ。
これは紛れもない事実なんだ。
だけど、僕のその話を聞いた安和が、
「パパは、もしまた同じことがあったら、放っておくの……?」
と尋ねてきたことについては、
「ううん。たぶん、マデュー達を助けようとするだろうね。ただ、どんな結果になったとしてもそれを受け止める覚悟が、今の僕にはあるというだけだ」
そう応えたのだった。
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