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第五幕

自分の子がこんな形で

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僕は、母が傷付けられたことに憤った。もちろん、人間達は僕達がここにいることを知らないから銃を使ってるんだろうけど、双方の兵士達にも家族がいて、その兵士を生んだ<親>は少なくともいるはずなんだ。

自分の子がこんな形で命を落とすことを喜ぶ親なんて、確かにいないこともないにしても、そういう親は決して多くないと思う。だとしたら、我が子の死を悲しむ親がいるであろう相手に向けてこんな風に弾丸を放つ人間達の行いが本当に本当に許せなくて。

すると、拳を握り締めた僕に、母は言ったんだ。

「ミハエル。ママが傷付けられたことで憤るその気持ちはとても大切なものだけれど、でも、その気持ちを感情のままに相手にぶつければ、自分も同じことをするだけなの。分かってほしい」

僕や自分に向けて飛んでくる銃弾を、視線を向けることさえなくはたき落とす母は、すごく優しい笑みを浮かべつつ僕に言ったんだ。そんな母を見ると、この時は怒りもすっと収まった。

そうして僕と母は改めて歩き出して、その場を離れた。

とは言っても、こうして実際に衝突してる現場以外でも、凄惨な光景はあちこちに広がってて、僕の陰鬱な気分は晴れなかった。

しかも、そういう場所にわざわざ出向いてきて、遺体が身に付けているものをはぎ取っていく人間もいた。避難する場所も見付けられずに隠れ住んでいる人間達なんだろうけど、もう人の形もとどめていない遺体からボタンやバッジや拳銃や、時には指輪やネックレスのようなものを奪い取っていくその姿は、僕には、屍肉を漁る<グール>のようにさえ見えたよ。

そういう者達のほとんどは、兵士としてはもう前線に立てないような年齢の男性だったけど、中には女性もいたし、さらには、格好こそ老婆のように見せながら実は若いんだというのが、ううん、はっきりまだ<子供>だっていうのが分かる人間もいた。

母は、そんな人間達の行いについても、

「彼ら彼女らも、生きるためにしていることだから。野生の獣が死肉を貪ることで命を繋ぐのと同じ。これも、生きるということの現実……」

と僕に諭すだけで、

『人間とはこんなにもあさましい生き物だ』

的な言い方はしなかった。だけど、この時の母の言葉には、僕は、

『野生の獣と同じなら、いっそ狩ってしまえばいいのに。僕達吸血鬼の糧になるなら、彼らだって役に立つんじゃないのかな』

そんなことを思ってしまっていたな。

とにかく人間という生き物について、まったく価値を見出せずにいたんだ。

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