ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

安和の不信感

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安和アンナは、人身売買を行っていた人間達に対する憤りを燻ぶらせていた。それが、父親である僕には分かってしまう。そして、自身の感情を優先させてくれない僕に対する不信感を醸成しているのを感じる。

無理もない。僕自身、覚えのあることだ。

第二次大戦中、母に連れられて大陸を移動しつつ、そこで行われていた人間達の蛮行に僕は怒り、自分が抑えられなくなりかけたことがあった。

だから、

「安和と悠里ユーリには聞いておいてほしい。これは、アオにも話したことのない、僕が経験した出来事だ」

僕に対する不信感を秘めつつも甘えるように体を寄せてきている安和と、向かいに座る悠里に向って僕は語り始めた。



これは本当に酷い話だから、具体的な名前は出さない。どこで起こったことなのかも触れない。人名もすべて仮だ。

ただ、第二次大戦中に僕が実際に経験したことだというのだけは明かしておく。



その日、僕と母は、互いに瓦礫を盾にして対峙する人間達の戦闘の真っただ中を突っ切ろうとしていた。人間の武器程度なら当たったところで、僕達にとっては虫に刺された程度だからだ。それに、躱すことだって別に難しくない。

すでに<人間じゃないもの>になった無数の屍を踏み越えて、僕と母はそこを歩いていく。父はこの時、次の合流場所だけを告げてどこかに行っていた。それは、人間達に自分が持つ技術を供与して対価を得て生活の足しにするために何度も行っていたことだった。実はその内のいくつかが後に化学兵器などの開発に役立てられたことを知ったこともあって父に対するわだかまりにもなるんだけど、この時のことは父は関係ないからそれについては脇に置く。

僕と母は当然、気配を消してるから人間達からは認識できない。だから双方共、容赦なく銃弾を放ってくる。僕の頭のすぐ脇をそれが通り過ぎると、まるで虫が飛んでいるかのような音がする。『プーン』って感じの、どこか気の抜ける音だ。人間にとっては恐ろしい銃弾も、僕達にとってはその程度なんだよ。

ただ、幼かった僕は完全には対処できなくて、それを母が庇ってくれた。当たっても死なないけど、多少でも痛みはあるからね。僕の顔の前に差し出された母の手に銃弾が当たり、血と肉が小さく爆ぜる。だけど銃弾そのものは母の手に潜り込んだところで止まり、僕には届かない。

「ママ、大丈夫?」

僕が訊くと、母は平然と笑顔で、

「うん、大丈夫」

と応える。実際、母の手で止まった弾丸はすぐに押し出されてコロリと地面に落ちた。見るともう、傷はまったくなくなってて白い肌が輝いてさえ見えたんだ。

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