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第五幕

僕もそれなりに長く人間というものを見てきて

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『力の使い方に慣れる』

というのは、その場の思いつきや勢いだけで行っていいことじゃない。それによって取り返しのつかない事態に至ったという経験は、人間達はこれまで無数に重ねてきたはずだ。

それなのにただ無責任に、

『喧嘩に慣れればいい』

的な無責任な言説をただ繰り返してるというのも事実だと思う。それが何をもたらしてきたか、人間は一体、いつになったら気付くんだろうね。

そう思うからこそ僕は、安和に丁寧に接するんだ。彼女が自分の中にある衝動を確実に制御できるようになるまで、諦めることなく投げ出すことなく、確実に身に着くように、手本を示しつつ、説明を重ねていかなくちゃいけない。

僕がそこで諦めてしまったら、投げ出してしまったら、彼女は、個人的な主観だけを頼りにして力を行使するようになるだろう。人身売買組織の一員と思しき人間を見下ろす彼女の視線からすれば、それが何をもたらすのかは火を見るより明らかだと思う。

今の時点で既に人間より圧倒的に強大な力を持つ彼女が感情のままに個人的な主観だけを頼りに力を振るえば、ね。

 その実例は既にある。エンディミオンこそが、安和が辿る可能性のひとつだ。僕は彼女にそうなってほしくない。他でもない、彼女をこの世に送り出した張本人の一人だからこそ。

彼女をこの世に送り出していなければそうはならなかったはずだからね。

そんな可能性も承知した上で僕は彼女に生まれてきてもらったんだ。だったら僕は、自身のその判断に対する責任を負わなきゃいけない。

彼女を人間にとっての外敵にしちゃいけない。どれほど己の行為に対して正義を唱えたところで、その正義は、人間が思うそれと完全に一致することはない。そんなことは人間自身が歴史の中で証明して来ている。

戦争なんてもの自体が、人間達がそれぞれ思う正義を為そうとした結果なわけだからね。

その実例が無数にあるのにその事実に目を向けないというのは、怠慢以外の何物でもないよ。

だから僕は、<安和に力の使い方を理解してもらう努力>を放棄することはない。

彼女の親である僕がそれを放棄していて、彼女を勝手にこの世に送り出した張本人としての責任が果たせるはずもない。

それでは、<自身の行いに対して責任を負うという姿勢>が子供に示せるはずもない。

親が自らその手本を自分の子供に示さないから、責任というものを理解しないまま大人になる人間が多いんじゃないの?

僕もそれなりに長く人間というものを見てきて、それを痛感させられてきたよ。

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