ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

誰もが最初から

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セルゲイから『あと十分くらいで州軍が到着する』との情報がもたらされたことで、僕は、人身売買組織の一員と思しき人間が他にもいないかどうかを、確認することにした。

悠里ユーリ安和アンナ、そっちはどう?」

念のため、人間には聞き取れない速度の声で問い掛けると、二人は、

「こっちも二人、拘束した」

「こっちも一人。他は分かんない」

それぞれ応えてくれる。だから僕はまず、安和の方に向かうことにした。すると彼女は、廊下の端で拘束された若い男性の脇に立って、何とも言えない表情でその男性を見下ろしていた。彼女の目に仄暗い感情がよぎっているのが分かる。

『こんな奴、殺してしまえばいいのに……』

そう考えているのが分かるんだ。だけど僕は敢えて、

「安和、ありがとう」

と彼女を労った。

『そんなことを考えるな』

みたいに言ったところで、彼女の内心まで僕が支配することはできないから。こういうことは徐々に慣れていくしかない。

こういう時、人間は、

『最近の奴は喧嘩慣れしてないから手加減とかが分からない』

的な言い方をするけど、それは根本的におかしい。論理が破綻してるんだ。

『喧嘩慣れ』する前は誰でも<慣れていない状態>だから、

<喧嘩慣れしていなくて手加減が分からない最近の奴>

と同じ状態のはずなんだ。誰もが最初から喧嘩慣れなんてしてるはずがない。だとしたら、慣れていない時点では、当然のこととして手加減ができなくて取り返しのつかないことになったりしてもおかしくないのに、その点については触れようとしない。自分にとって都合の悪いことについては見ないようにしてるんだ。

だけど僕は、悠里や安和に<力の使い方>については学んでほしいと思うけど、それはあくまで僕達には人間を圧倒する大変な力が元々備わっているからであって、わざわざ諍いを起こして荒事に慣れてもらおうと思ってるわけじゃないんだ。

望むと望まざるとに拘わらず、吸血鬼やダンピールは、指一本で人間を死に至らしめることができてしまう。まったく鍛えようとしなくてもだ。非力な人間の子供でも小さな虫くらいなら体なんて鍛えなくても殺すことができてしまうようなものかな。

だからこそ望むと望まざるとに関わらず人間の世界で生きていくには<力の使い方>を知らなくちゃいけない。それをわきまえなくちゃいけない。

自分の都合ばかりを優先して力づくで物事を成し遂げようとすれば、そこには大変な被害が生じることもある。人間は、何度も何度もそれを経験してきているはずだ。

だからそれをわきまえないといつか本当に致命的な結末を迎えることになるんじゃないかな。

僕は親としてそれを、安和に理解してもらわないといけないんだ。

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