497 / 697
第五幕
それが生まれてくる背景を正さない限り
しおりを挟む
こういう人間達をいくら打ちのめしても、それが生まれてくる背景を正さない限り終わりはない。<見せしめ>というのは、元々、犯罪傾向の低い人間にしか通用しないんだよ。日常的にこういうことをしている人間については、
『自分ならもっと上手くやれる』
と考えるだけなんだ。だから大した抑止力にもならない。そして、僕達が打ち倒して空きができたら、その縄張りに別の人身売買組織が入り込むだろうな。
それも分かった上で、敢えて僕達は対処する。人間という生き物をできる限り正確に把握するために。
セルゲイの通報で、州軍も動いてると思う。この辺りは、人身売買組織に対しては警察と同時に州軍も動くことになっているんだ。
「悠里、安和、決して殺さないように無力化するんだ。軍との戦闘になればきっと死者も出る。しかも今はどうやら他にも宿泊客がいるみたいだ。巻き添えで犠牲者が出てもいけない。極力静かに、確実にね」
人間達には聞こえない速度と大きさの声で告げると、悠里は、
「分かってる」
と応じてくれたものの、安和は、
「殺すか眷属にしちゃえば楽なのにな……」
少し不満顔だった。彼女は理不尽な彼らへの憤りが強いんだね。けれど、
『理由があれば殺していい』
という感覚が危険であることは分かってる。加えて、人間を裁くのは人間に任せるべきだ。吸血鬼やダンピールである僕達の役目じゃない。人間自身が自らを律していけるようにならなくちゃ駄目なんだ。<人間じゃないもの>に頼っていては、人間はいつまでも自立できない。これは、<神という概念>についても同じ。
僕達吸血鬼は、<神>をあてにしない。一部の吸血鬼は人間と同じように神を信仰していたりもするけど、それは決して、<神という親>に甘えてその脛を齧り、自らの行いの責任を負ってもらうためのそれじゃないんだ。あくまでも、
『神から見た自身の姿を想起することで自らを客観視する』
ためのものでしかない。
それをわきまえた上で、僕達は行動を開始する。
まずは、僕達を売った<代金>を受け取りそれを数えているタクシー運転手を、安和が足払いで倒し、そのまま後ろ手に極めて、
「いっっ……!?」
悲鳴を上げる暇も与えず僕が持っていた結索バンドで手と足を拘束。それを逆エビ反りの形で繋いで身動きを取れなくする。
この間、一秒強。
「え……?」
管理事務所にいてタクシー運転手に代金を払った男と、もう一人の男は僕と悠里が対処し、状況を把握する暇も与えず同様に拘束したのだった。
『自分ならもっと上手くやれる』
と考えるだけなんだ。だから大した抑止力にもならない。そして、僕達が打ち倒して空きができたら、その縄張りに別の人身売買組織が入り込むだろうな。
それも分かった上で、敢えて僕達は対処する。人間という生き物をできる限り正確に把握するために。
セルゲイの通報で、州軍も動いてると思う。この辺りは、人身売買組織に対しては警察と同時に州軍も動くことになっているんだ。
「悠里、安和、決して殺さないように無力化するんだ。軍との戦闘になればきっと死者も出る。しかも今はどうやら他にも宿泊客がいるみたいだ。巻き添えで犠牲者が出てもいけない。極力静かに、確実にね」
人間達には聞こえない速度と大きさの声で告げると、悠里は、
「分かってる」
と応じてくれたものの、安和は、
「殺すか眷属にしちゃえば楽なのにな……」
少し不満顔だった。彼女は理不尽な彼らへの憤りが強いんだね。けれど、
『理由があれば殺していい』
という感覚が危険であることは分かってる。加えて、人間を裁くのは人間に任せるべきだ。吸血鬼やダンピールである僕達の役目じゃない。人間自身が自らを律していけるようにならなくちゃ駄目なんだ。<人間じゃないもの>に頼っていては、人間はいつまでも自立できない。これは、<神という概念>についても同じ。
僕達吸血鬼は、<神>をあてにしない。一部の吸血鬼は人間と同じように神を信仰していたりもするけど、それは決して、<神という親>に甘えてその脛を齧り、自らの行いの責任を負ってもらうためのそれじゃないんだ。あくまでも、
『神から見た自身の姿を想起することで自らを客観視する』
ためのものでしかない。
それをわきまえた上で、僕達は行動を開始する。
まずは、僕達を売った<代金>を受け取りそれを数えているタクシー運転手を、安和が足払いで倒し、そのまま後ろ手に極めて、
「いっっ……!?」
悲鳴を上げる暇も与えず僕が持っていた結索バンドで手と足を拘束。それを逆エビ反りの形で繋いで身動きを取れなくする。
この間、一秒強。
「え……?」
管理事務所にいてタクシー運転手に代金を払った男と、もう一人の男は僕と悠里が対処し、状況を把握する暇も与えず同様に拘束したのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる