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第四幕
面倒臭いと感じる自身の感情を我慢してない
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そんな諸々もありながらも、洸達はとても寛いでいた。僕達もとても安心する。
こうして楽しい一時を過ごして、洸達は帰っていった。椿は洸との別れに涙を浮かべつつ彼に抱き付いていたりしたけれど、
「ありがとう、椿。そんなに僕のことを好きでいてくれて」
洸にそうなだめられて、
「うん……うん……」
と、抱き付いたまま何度も頷いてた。
こんな風に、なんでもは自分の思い通りになるわけじゃない。我慢しなきゃいけないこと、耐えなきゃいけないことは、この世には当たり前にある。その一つ一つに丁寧に対処していけば、我慢しなきゃいけない時、耐えなきゃいけない時にどうすればいいのかが分かるはずなんだけどな。
なのに人間は、他者と折り合いを付けるために我慢しなきゃいけなかったり耐えなきゃいけなかったりする時に、
『自分の権利が侵害されてる!!』
と考えるんだ。不貞行為を我慢することについても、まるで、『自分の権利が侵害されてる』と言わんばかりの態度を取る。それを実行することで誰かを傷付け苦しめるであろう事実には目を向けさえせずに。
本当に意味が分からない。
ようやく落ち着いた椿に見送られて洸達が帰っていった後、再び泣き出した椿は、僕の膝に座ってた。
そんな椿を、僕はもちろん、悠里も安和も嘲ったりはしない。嘲る必要もない。特に安和は、セルゲイとのこともあって共感できてしまうだろうからね。
泣くことで自分の感情と現実との乖離に折り合いを付けるんだと、安和は実感しているし。
事実、しばらく泣くと椿は、
「おなかすいた……」
と言い出した。そこにアオが起きてきて、
「え? 椿、どうしたの!?」
泣きはらした顔をした彼女を見て声を上げたんだ。
「洸達が来ててさっき帰ったところなんだよ」
僕が言うと、
「ああ……!」
察してくれた。僕達が海外を巡っている間にも洸達は何度も家を訪ねてくれて、その度に椿は別れを惜しむ経験をしてきたからね。
ただ今回は、僕達が帰ってきてたことで、これまで以上に感情のタガが外れてしまっていたようだけど。アオと二人きりだった時には、アオに心配掛けさせまいと無意識のうちに自らを抑制していたようだ。
そういうこともあるよね。
それらを『面倒臭い』として抑え付けようとする人間もいるけど、それは、
『面倒臭いと感じる自身の感情を我慢してない』
だけだからね? ましてやそれなりに人生経験を積んできている大人がというのは情けないと思うけどな。
だけどそれも、今の椿のように自身の感情を抑えることなく出して、その上でどう付き合っていくかを学んでこなかったからそうなったんだろうけどさ。
こうして楽しい一時を過ごして、洸達は帰っていった。椿は洸との別れに涙を浮かべつつ彼に抱き付いていたりしたけれど、
「ありがとう、椿。そんなに僕のことを好きでいてくれて」
洸にそうなだめられて、
「うん……うん……」
と、抱き付いたまま何度も頷いてた。
こんな風に、なんでもは自分の思い通りになるわけじゃない。我慢しなきゃいけないこと、耐えなきゃいけないことは、この世には当たり前にある。その一つ一つに丁寧に対処していけば、我慢しなきゃいけない時、耐えなきゃいけない時にどうすればいいのかが分かるはずなんだけどな。
なのに人間は、他者と折り合いを付けるために我慢しなきゃいけなかったり耐えなきゃいけなかったりする時に、
『自分の権利が侵害されてる!!』
と考えるんだ。不貞行為を我慢することについても、まるで、『自分の権利が侵害されてる』と言わんばかりの態度を取る。それを実行することで誰かを傷付け苦しめるであろう事実には目を向けさえせずに。
本当に意味が分からない。
ようやく落ち着いた椿に見送られて洸達が帰っていった後、再び泣き出した椿は、僕の膝に座ってた。
そんな椿を、僕はもちろん、悠里も安和も嘲ったりはしない。嘲る必要もない。特に安和は、セルゲイとのこともあって共感できてしまうだろうからね。
泣くことで自分の感情と現実との乖離に折り合いを付けるんだと、安和は実感しているし。
事実、しばらく泣くと椿は、
「おなかすいた……」
と言い出した。そこにアオが起きてきて、
「え? 椿、どうしたの!?」
泣きはらした顔をした彼女を見て声を上げたんだ。
「洸達が来ててさっき帰ったところなんだよ」
僕が言うと、
「ああ……!」
察してくれた。僕達が海外を巡っている間にも洸達は何度も家を訪ねてくれて、その度に椿は別れを惜しむ経験をしてきたからね。
ただ今回は、僕達が帰ってきてたことで、これまで以上に感情のタガが外れてしまっていたようだけど。アオと二人きりだった時には、アオに心配掛けさせまいと無意識のうちに自らを抑制していたようだ。
そういうこともあるよね。
それらを『面倒臭い』として抑え付けようとする人間もいるけど、それは、
『面倒臭いと感じる自身の感情を我慢してない』
だけだからね? ましてやそれなりに人生経験を積んできている大人がというのは情けないと思うけどな。
だけどそれも、今の椿のように自身の感情を抑えることなく出して、その上でどう付き合っていくかを学んでこなかったからそうなったんだろうけどさ。
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