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第四幕

全人類の命を救うことの方が大事なんていう綺麗事

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<全人類の命を救うことの方が大事なんていう綺麗事>

そんな人間の綺麗事に僕達吸血鬼が付き合う必要もない。だから、僕は僕の大切な人達と全人類とで選択を迫られたら、ううん、僕にとっては<選択>でさえない。<全人類>なんていう大きな主語は、僕にとっては何の価値もないんだ。

だからって僕達吸血鬼を滅ぼそうとしても無駄だ。いくら人間が強力な武器を開発しても、僕達吸血鬼にもそれは同じように使えるし、武器の性能に多少差があっても、僕達にはそれを覆せるだけの能力がある。どれほど入念に軍事作戦を練ろうとも、僕達にもそれは理解できるから、対処法だって考えられる。

僕達は細菌でもウイルスでもないよ。

人間にできることで僕達吸血鬼にできないことはないんだよ。人間が唯一勝っている<数>だって、眷属を増やすことに歯止めを掛けなければ三日で逆転する。真っ向から生存競争を挑むなら容赦はしない。

共に地球に生きる者同士で折り合うか、相手を殲滅するか。

吸血鬼は前者を選んだ。それでも人間は後者を選ぶのかな。本当に何を考えているんだろうと思う。

一応、人間の為政者達は、吸血鬼と折り合うことを考えてはいるみたいだけどね。



そんなことも思いつつ、僕は目の前の平穏を守りたいというのも本音だ。わざわざそれを壊したいとは思わない。

なのに人間は、わざわざ自分から平穏を壊そうとする。

『不貞は許さない』

と言うのなら、どうして不貞を働くんだろうね。その先には破滅が待っているだけなのに。

あきらが言うんだ。

「昨日も、看護師さんから食事に誘われたんだ。その看護師さんには旦那さんも子供もいるのにね。本当に困ったものだよ」

確かに、<食事>を一緒にするだけならただ『親睦を図る』だけとも言えなくはないと思う。だけど彼が受けた誘いは、『二人だけで』というものだったそうだ。あらぬ誤解を招くのを避けたいのなら、当然、<複数での親睦会>という形をとるべきだと思うし、大人ならそういう配慮をするべきだと思うんだけどな。それを『したくない』『面倒だ』と甘えるのなら、子供に対しても甘えを許さないのはやっぱりおかしいよ。

その看護師の真意は分からない。分からないけれど、こうやって穿った見方が容易にできてしまう脇の甘さは、自慢できることじゃないと思うけどな。

すると恵莉花えりかまで。

「私もさ、実は普通に制服でちょっと買い物に寄っただけで、『三万円でどうかな?』とか、見た目は普通そうな中年のサラリーマンに声を掛けられたことがあるんだ。もし家庭があるのにそんなことをしてるんなら、最低だと思う。本気で寒気がしたよ」

<全人類という主語>には、そういう人間達も含まれるよね。

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