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第四幕

マナー違反

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<親とは別の人間>である我が子を、

<自身にとって都合のいい人間に完璧に育てることができる親>

であれば、そもそもパートナーとの関係も良好なものに保つことができるはずだよね? だって、

『自分とは別の人間を自身に都合よく作り上げて』

しまえるんだから。けれど、紫音しおんの両親はまったくそれを活かせていない。お互いに、

「死ねばいいのに」

と実際に口にしているのを僕は耳にしている。それぞれ相手が、事故や病気で死んでくれたなら後は上手くやれるのにと考えているんだ。

紫音の父親が家に寄りつかないのは、母親に毒殺される危険性を懸念してのものであることも分かってる。以前、珍しく自宅に帰った時に、

「この料理、毒とか入ってないだろうな?」

「はあ? 他人ひとに用意させといてなにバカなこと言ってんの」

というやり取りがあったのも耳にした。この二人は、互いに関係修復のための努力をする気がないんだ。母親の方は、ネットに、父親の行状を延々とアップして、

<家庭を省みない酷い夫に虐げられている妻>

を演じているのも、スマホを操作しながら自転車に乗り買い物に行く際の画面が見えてしまったことで確認している。

『他人のスマホの画面を覗き見るな!』

と憤る人間もいるだろうな。なるほどマナーには反する行為かもしれないけれど、<ながら運転>というれっきとした道交法違反を棚に上げるのはどうなの? 

という形で<炎上>するんじゃないの?

<他人のスマホの画面を覗き見るというマナー違反>

に対しては謝罪してもいいけどね。もっともそれ以前に、

『他人の家庭内の会話や発言を盗み聞きしてる』

時点でマナー違反どころじゃないだろうね。ただ、人間のセキュリティーが僕達吸血鬼の超感覚を想定していないから、プライバシーというもの自体が成立していないんだけど。

だから僕達吸血鬼は、

<見ようとしなくても見えてしまうもの>

<聞こうとしなくても聞こえてしまうもの>

についてはスルーすることになっているんだ。けれど、紫音に関することについては、椿にも関係することだから、無視はできない。聞き耳も立てるし、見えるところでスマホなどをいじっているなら覗き込みもする。

元々、僕達に吸血鬼に人間のマナーも法律も関係ないから。直接紫音に危害を加えるようなことをしなければ通報したりもしないけど、用心はさせてもらうよ。

もっとも、僕がそれをしてるのは、大きくなった紫音が両親の行いに対して<爆発>することについても懸念してのものでもあるんだ。

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