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第三幕

切り捨ててもいい命

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広い広い世界を実感させる景色の中で人間達の<業>ともいうべきものを見せつけられた悠里ユーリ安和アンナは何とも言えない表情になりつつも、僕やセルゲイに寄り添うことで自分の感情と折り合っていた。

こういう形で、強い感情と折り合いをつけるのが大事なんだと思う。それが湧き上がってきた時点で対処せずに放置すると、やがて積み重なって火山のように爆発するんだ。

「この世には、悲しいこと、辛いこと、理不尽なことが無数にある。でも、その一方で幸せも確かにあるんだ。僕達はその幸せを安和や悠里に実感してもらいたい」

「うん……」

「分かってる……」

セルゲイの言葉に、二人も頷いてくれる。

人間はいまだに、

『子供の頃には危険な遊びをして、時には命を落とすのがいてもそれは<淘汰>に過ぎなくて、生命力の強いのだけが生き延びることで選別される』

的なことを言うのがいるけど、そうやって命を軽く見るから殺し合うこともできるんだとなぜ分からないのか、僕には不思議なんだ。

『死ぬ奴が弱い。弱い奴は死んで当然』

なんて考え方は、本当に自然を見ていれば必ずしもそうじゃないことも分かるはずなんだけどな。

弱くても生き延びるものはいる。それは事実なんだ。

そして人間は、戦争などによって多くの人間以外の命も犠牲にしつつ殺し合う。人間同士の恨みつらみだけでは済まないことを理解しない。

『人間が最も高等な生き物だから、それ以外の生き物のことは考慮する必要はない』

と言うのなら、何をもって<高等>なのか、それを定義する必要があると思うけれど、結局は人間にとって都合のいい定義しか提示しない。

しかも、人間が考える定義を基にすれば、僕達吸血鬼やダンピールの方が高等生物であり、吸血鬼やダンピールは人間のことなんて考慮する必要がないという話になってしまう。

それでは人間自身が困るのにね。

そして、フィクションなどでもよく題材にされる、AIやそれを搭載したロボットが人間よりも優れた存在になった時には、人間は淘汰されるべきというのが現実のものになってしまうんじゃないかな。

こういう未来を回避するためには、人間自身が考えを改める必要があると思う。

優れてなくても、弱くても、生きるものは生きるし、『切り捨てていい命はない』ということをね。

これは、<綺麗事>じゃないんだ。いずれ人間という種の優位性が失われた時にも人間が生きていられるための<生存戦略>そのものなんだよ。

でなければ、僕達吸血鬼やダンピールの存在が公になった時には、人間はこの地球で最上位の存在じゃなくなるのと同時に、

<切り捨ててもいい命>

になるからね。

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