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第三幕

アララト山

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夜が明けるまでの間に寝て、早朝、ホテルを出る。

「良い旅を」

受付の男性が笑顔で送り出してくれた。

そうして駅に向かい、駅前の朝市で、僕とセルゲイはトマトを、悠里ユーリ安和アンナはまたリンゴを買って食べて、列車に乗る。

日本の綺麗な列車に比べればやっぱりくたびれた印象のあるそれに揺られて、目的の駅、アララトへ来た。



アララトには、アルメニアにとって重要な企業がいくつか存在してるそうだ。その中でも、<アララト金再生会社>は、金鉱から産出される岩石から金を生成する、特に重要な企業だ。

ただ、環境対策は決して十分じゃなく、他の企業から排出されるガスや粉塵と合わせて、環境汚染を引き起こしている。金の精製の際に出るシアン化合物も適切な処理が行われずに、多くの生き物が死んだという。

正直な話、ジョージアと同じで必ずしも経済的に成功を収めているとは言い難いから産業の規模も結果的に抑えられていて、その皮肉な結果として環境汚染もまだその程度で済んでいるというのも事実なんだろう。

「……」

安和は、駅に降り立つ前から不快そうな表情をしていた。大気が汚染されているのを感じ取っているんだ。

「人間はよくこんなところで住めるよね……」

彼女はそう口にするけど、実は、日本の僕達の家がある地域だって、必ずしも大気汚染がまったくないわけじゃない。そこにずっと住んでいるから慣れてしまっているだけだ。だから、ここの環境も、慣れてしまえばそんなに気にならないんだろう。

ただ、呼吸器系の疾患は多いらしいけど。

だから僕達は、それから逃れるようにして、アララト山を目指して走った。駅前のスーパーでハンバーガーを買って、途中で食べる予定だ。

アルメニアとトルコの国境付近では軍隊による警備も見られたけど、僕達は気配を消しているから、人間には察知できない。たとえ機械が反応したとしても、現に人間の感覚では何も捉えられないから、誤作動と解釈されるんだ。

一応、トルコとの関係は、表向きは平穏を装いながらも、かつて、第一次世界大戦中に百万人を大きく超えるアルメニア人が虐殺されたとして、その認識を巡って対立は続いている。

ここでも、オスマン帝国由来の地に住んでいたアルメニア人は一人残らず殺されたとなっているけれど、それを基にした憎悪は今も残り続けているんだ。

『敵は皆殺しにすればいい』

というのは、果たされていない。それどころか、ただ遺恨を残し、火種を残しただけだ。

僕達吸血鬼は、生物としての人間を絶滅させる力はある。だけど、もし、そんな形でアオや椿やさくらや恵莉花えりか秋生あきおが喪われたら、それを実行した吸血鬼に対してきっと報復を誓うだろうな。

実行するかどうかは別にして。

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