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第三幕

譲れないもの

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セルゲイの祖父の墓参を終えて、僕達は再度走ってホテルに戻る。途中、遠くの方で銃声が聞こえた。

「アゼルバイジャンとの衝突かな?」

悠里ユーリが尋ねてきたから、

「そうかもしれないね。この音は、たぶん軍用のアサルトライフルのものだし」

セルゲイが応えた。

「どうしてそんなことしてるんだろ……」

安和アンナが悲し気に口にする。

「そうだね。とても愚かなことだと僕も思う。だけど人間は、自分にとって譲れないもののためなら命だって投げ出すこともある生き物なんだ。彼らには彼らなりの<譲れないもの>のために戦ってるんだとは思う。それを一方的に責めても納得はしてくれない。それで納得してくれるなら、歴史上の多くの争いは起こってさえいなかっただろうね」

セルゲイのその言葉に、

「それは分かるけど……」

安和も悲し気に呟いた。

こういう部分でも、『人間は愚かだ!』と切り捨てるのは簡単だ。人間は、人間の命だけでなく他の生き物の命さえ巻き添えにして争いを続けてる。それはとても愚かしいことだ。だから人間さえいなくなればそういう悲しいこともなくなるような気はしてしまう。

けれど、そういう考えこそが、人間が諍いをやめない理由なんだ。

『あいつらさえいなければ、この悲しみは終わる。苦しみは終わる』

お互いにそう考えて攻撃を続ける。でも、そんなことが果たされることはない。戦争だって、お互いにどこかで引き際を考える時が来る。

戦勝国でさえ、相手の国を完全にこの世から消してしまうことはしない。戦争中は、

『敵を殺さなければ自分達が殺される。自分達の家族が殺される』

と鼓舞するけれど、完全に根絶やしにしてしまうことはない。もしそんなことに成功したとしても、今度は、周辺の国から危険視されることになる。

『もしかすると今度は自分達が標的になるのでは?』

と危惧される。その不信感が軋轢を生む。

『同盟を結んでいるから攻撃されることはない』

なんていうのも、絶対の保障にはならない。

それが分かるから、僕達は人間を根絶やしにしないようにしている。人間を根絶やしにすれば、今度は吸血鬼同士で衝突することになるのが分かるから。

ダンピールの存在を受け入れられてる吸血鬼とそうでない吸血鬼がいることでもそれは明白だ。ダンピールの存在を受けれられてる吸血鬼とそうでない吸血鬼とで対立することになるから。

すると、

『ダンピールさえいなくなれば解決する!』

と訴える者が出てくるだろう。だけど、悠里や安和がいる僕やセルゲイはそれを受け入れることはできないし、ダンピールの友人を持つ吸血鬼も、承諾はできないだろうね。

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