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第三幕

皮肉な話

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そうしてセルゲイの祖父が最後の時間を過ごしたこのアルメニアも、隣国アゼルバイジャンやトルコとの間に紛争を抱え、多くの血を流し、さらには環境を省みない経済政策で自分達の国土を汚し、疲弊させている。

この事実だけを見れば、

『やはり人間は愚かな生き物だ! 駆除するべきだ!!』

と考える者もいるかもしれない。だけど、セルゲイは言うんだ。

「祖父の周りにはいつも、真摯に土と向き合う人々がいたんだ。彼らは人間で、祖父が吸血鬼であることに最後まで気付かなかったそうだ。

一つ所に長くいることができない祖父は各地を転々としながら畑を耕し、そこを去る時には人間達に畑を託した。

今もそれが受け継がれているところもあれば、ここのように諸々の事情によって廃れてしまったところもある。<想い>がすべて正しく続いていくわけじゃないことも、まぎれもない事実だ。けれど、すべてが上手くいくわけじゃないこと自体が、この世の<理>なんだよ。

祖父は、人間達の行いに憤ることはなかった。彼にとっては、それは重要なことじゃなかった。彼にとって必要なのは、目の前にある土との対話だったんだ。土を見て土と語り、土から学ぶ。

人間の活動によって汚され死んでしまったかのように見える土さえ、彼にとっては興味深いものだっただろうね。

彼がもし生きていたら、チェルノブイリ原発の事故で放棄された地にさえ赴いて、そこに畑を作ったかもしれない。何しろ、事故当時は、<何ものも生きられない死の世界>になると見られていたの地も、大変な勢いで自然に還っていってるそうだし。

生命の強さというものをまざまざと見せつけてくれているね」

そう語ったセルゲイは、放置され野生化したブドウの実を見付け、それを一粒手に取って口にした。

「あはは、さすがに食べるには適さないか。人間が手を加えないと、やっぱり美味しくなるような種類の作物じゃないね」

と、苦笑い。

空を見上げると、落ちていきそうなほどの満天の星空。

「あ、流れ星!」

安和アンナが声を上げる。見ると、二つ、三つと続けて流星が落ちた。とは言え、今日は流星群が見られるという情報はなかった。これについても、セルゲイが、

「もしかすると人間が宇宙に放置した<デブリ>が落ちてきたものかもしれない。こうして見ると綺麗なんだけど、実は<ゴミ>だというのが皮肉なものだね」

穏やかに微笑みながら言う。

「まあね。人間達が作る可愛いアクセサリーも、なんだかんだで環境にダメージを与えながら作られてるんだってのは、私も知ってるよ。これも皮肉な話ってことでしょ?」

安和の言葉に、

「そうだね。安和は利口だな」

セルゲイが微笑んだのだった。

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