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第三幕

変わり者

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僕は、そんなことを考えながらアルメニアの地を、悠里ユーリ安和アンナやセルゲイと共に駆け抜けた。

久しぶりのそれは、僕にとっても心地好い。街の建物の上を跳び越え、農地を跳び越え、大地を蹴る。

まるで自分が野生の獣になったかのようにさえ感じるそれが、たまらなく心地好いんだ。

僕達の命は、本来、それでよかったという気もする。コンクリートで囲まれ電子デバイスで何もかもを済まそうとするんじゃなく、こうして野を駆けて獣を追い果実を求めて生きていればいいんじゃないかなって。

ただ、悠里と安和はともかく、アオや椿つばきはこういう生き方はさすがにできないか。それじゃ意味がないな。

とも思う。

こうして僕達は、三時間をかけて六十キロを移動。山間やまあいの村、いや、もうすでに人間の気配はないから、<廃村>と言った方がいいんだろうなという集落跡へとやってきた。

人間が住まなくなった家々は荒れ果て、草木が伸び放題になり、もはや道路も畑も区別がつかなくなって、自然に還っていくのを待つだけになっているようだった。

「ここが、セルゲイのお祖父さんのお墓のある場所?」

安和が尋ねると、

「ああ、そうだよ。もっとも、<お墓>と言っても、ミハエルのお母さんや宗十郎のお墓と同じで、墓碑などはないけどね」

そう言いながら、集落のはずれの、完全に原野に還っている場所に立った。おそらく樹齢十年程度といった感じの木々が生い茂り、下草に覆われて何かがあるようには人間の目には見えないだろうけど、吸血鬼である僕らには分かる。ここに吸血鬼が眠っていることが。

<墓参>と言っても、特に何かをするわけじゃない。ただその場に立ち、先祖を想い、自身が生きていることを改めて心に刻み、未来に生きることを再度意識するために僕達はこれをするんだ。

「僕の祖父は、ただひたすらに畑を耕すことを良しとした変わり者でね。ぜんぜん吸血鬼らしくなかったそうだ。もちろん吸血鬼だから長く同じ場所にはいられなかったけど、どこに移り住んでもとにかく旧来の道具で淡々と地面を掘り返し、種を蒔き、水を撒き、草を引き、虫を掃い、そうして得た作物を人間達に振る舞って、自分は僅かな見返りを得るだけで暮らしていたそうだよ。

幼い頃の僕は、そんな祖父の生きざまが理解できなかった。吸血鬼は知能も高く、人間の技術もすぐに理解できて自分のものにできた。だから昔の僕は、人間達が作り出す技術に興味を引かれ、自動車なんかもよくいじっていたんだ」

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