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第三幕
エレバン到着
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この間、安和は眠ったままだったけど、ちょっとしたハプニングもありつつ、僕達は無事にアルメニアに入国できた。
先にも言ったとおり、アルメニアはアゼルバイジャンと紛争状態にあって、アゼルバイジャンへの渡航歴がある乗客に対しては審査が厳しくなる傾向にあった。他にも、トルコとも強い緊張状態にあるから、そちらも同様の対応になる。つまり、<スパイ>を疑ってのことだろう。
だけど、セルゲイがそれなりに著名な動物学者だったこともあって、それほど気にもされなかったみたいだ。彼が世界中を巡って動物の調査・研究をしていることは、知っている人間は知っているからね。
こうして朝の七時半頃、エレバンへと到着した。
「ふぁふ……やっと着いた?」
安和がようやく目を覚ます。結局、九時間近く眠ってた。吸血鬼やダンピールには珍しいことだ。よっぽど疲れてたんだろうな。しかも、
「うえ~、寝すぎたせいかなんか頭ぐるぐるする……」
とまで。
「姫様、失礼いたします」
セルゲイがそう言って抱き上げてくれると、
「うにゅ~♡」
嬉しそうに彼に縋り付いた。その様子を見る限りでは大丈夫そうだ。一方、
「悠里は、大丈夫かな?」
問い掛けると、彼は、
「うん。僕は大丈夫」
しっかりとした口調で応えてくれる。それを確かめて、列車を降りた。ここでまた乗り換えて、アララトへと向かう予定。
アララトと言えば、<ノアの箱舟>で有名なアララト山を連想するし、実際、関係のある地なんだけど、現在ではアララト山はトルコ領内にあるとされていて、でもアルメニアはそれを認めていなくて、領土問題として対立関係にあるそうだ。
正直、僕達吸血鬼からすれば本当にどうでもいいことで揉めてるように見えるけど、感情的に拗れると、道理も論理も関係なく互いに正義を主張し合うのが人間の習性だからね。当分、解決することはないだろうな。
僕は、どちらの主張が正しいかについては、触れるつもりはない。どちらも自分の言い分が正しいと信じているから、面倒なことになるだけだし、僕には関係のない話だ。
「はあ、やれやれ。また列車?」
うんざりとした安和の様子に、悠里が、
「ねえ、セルゲイのお祖父さんのお墓までは、あと、どれくらい?」
尋ねてきた。
「そうだね。ざっと六十キロくらいかな」
それを聞いて、悠里は、
「じゃあ、走っていかない? 僕も乗り物での移動ばかりで、なんだかすごく体を動かしたい気分なんだ」
と提案する。すると安和も、
「賛成賛成! 六十キロくらい、屁でもないじゃん!」
身を乗り出して言ったのだった。
先にも言ったとおり、アルメニアはアゼルバイジャンと紛争状態にあって、アゼルバイジャンへの渡航歴がある乗客に対しては審査が厳しくなる傾向にあった。他にも、トルコとも強い緊張状態にあるから、そちらも同様の対応になる。つまり、<スパイ>を疑ってのことだろう。
だけど、セルゲイがそれなりに著名な動物学者だったこともあって、それほど気にもされなかったみたいだ。彼が世界中を巡って動物の調査・研究をしていることは、知っている人間は知っているからね。
こうして朝の七時半頃、エレバンへと到着した。
「ふぁふ……やっと着いた?」
安和がようやく目を覚ます。結局、九時間近く眠ってた。吸血鬼やダンピールには珍しいことだ。よっぽど疲れてたんだろうな。しかも、
「うえ~、寝すぎたせいかなんか頭ぐるぐるする……」
とまで。
「姫様、失礼いたします」
セルゲイがそう言って抱き上げてくれると、
「うにゅ~♡」
嬉しそうに彼に縋り付いた。その様子を見る限りでは大丈夫そうだ。一方、
「悠里は、大丈夫かな?」
問い掛けると、彼は、
「うん。僕は大丈夫」
しっかりとした口調で応えてくれる。それを確かめて、列車を降りた。ここでまた乗り換えて、アララトへと向かう予定。
アララトと言えば、<ノアの箱舟>で有名なアララト山を連想するし、実際、関係のある地なんだけど、現在ではアララト山はトルコ領内にあるとされていて、でもアルメニアはそれを認めていなくて、領土問題として対立関係にあるそうだ。
正直、僕達吸血鬼からすれば本当にどうでもいいことで揉めてるように見えるけど、感情的に拗れると、道理も論理も関係なく互いに正義を主張し合うのが人間の習性だからね。当分、解決することはないだろうな。
僕は、どちらの主張が正しいかについては、触れるつもりはない。どちらも自分の言い分が正しいと信じているから、面倒なことになるだけだし、僕には関係のない話だ。
「はあ、やれやれ。また列車?」
うんざりとした安和の様子に、悠里が、
「ねえ、セルゲイのお祖父さんのお墓までは、あと、どれくらい?」
尋ねてきた。
「そうだね。ざっと六十キロくらいかな」
それを聞いて、悠里は、
「じゃあ、走っていかない? 僕も乗り物での移動ばかりで、なんだかすごく体を動かしたい気分なんだ」
と提案する。すると安和も、
「賛成賛成! 六十キロくらい、屁でもないじゃん!」
身を乗り出して言ったのだった。
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