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第三幕

夜行国際列車

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僕達がジョージアで滞在したホテルも、実は吸血鬼の互助組織が運営するものだった。ルドルフはそこで仕事があったから、今回、出張してきたんだ。

「よい旅を」

「ああ、ありがとう」

こうしてルドルフとも別れ、僕達はアルメニアに向かうために、鉄道で、ジョージアの首都トビリシに向かう。そこで、アルメニアの首都エレバンに向かう夜行国際列車に乗り換える形になる。

ジョージアはロシアに対する感情がよくない国だけど、列車のチケットなどにはロシア語が多く使われている。近隣諸国からの観光客や旅行客やビジネスパーソンも多く利用する交通機関などでは、結局、ロシア語が便利だからということなんだろうな。

僕達は、個室が使える一等寝台での乗車になった。安和アンナが少し疲れた様子だったから、他の乗客と同室になる二等寝台や三等寝台を避けたんだ。

「ふう……やれやれ……」

安和は部屋に入るなり溜息を吐いた。

「お疲れですか? お姫様」

セルゲイが労わってくれるから、

「うん、大丈夫」

とは言ってくれるけど、正直、ここ数日の道行は、彼女にとってはあまり楽しいものじゃなかったみたいだ。肌に合わない感じかな。

「大変だったね、安和」

僕が声を掛けると、

「ああ…うん。なんか知らないけど、気疲れした感じ」

セルゲイには『大丈夫』と言ったけれど、僕にはそう正直に伝えてきた。少なくない<不満>がそこに垣間見える。だけど僕は、自分の勝手で彼女をつき合わせたわけだからね。それくらいは受け止める覚悟もあるよ。

「ありがとう。感謝してる」

僕の勝手に付き合ってくれる彼女には感謝しかない。

「いいよ。確かに勉強にはなると思うからさ。こうしていろんなことを知るのも必要なんだって、私にも分かるよ」

それを口にできる彼女は、とても成長してると感じる。だからこそ、抱き締めずにいられない。

「安和、愛してる……」

「私もだよ、パパ……」

『愛してる』の言葉が口先だけのものにならないようにしなくちゃいけない。僕は、本当に家族を愛してる。その事実を伝えたい。



夜、九時過ぎ、列車は首都トビリシを発車。一路、アルメニアに向けて走る。

とは言え、列車自体もなかなか年季の入ったものだし、線路も日本のそれに比べれば精度も決して高くないんだろうな。速度自体、百キロ程度しか出てないようだ。日本ではそれこそ、在来線の普通電車でさえ百キロを超えた速度で運用されるものもあるのにね。

安和も悠里ユーリも、夜だけど体を休めるために眠ってた。

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