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第三幕
椿と紫音 その17
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傍若無人にも思える紫音の態度に憤った<智香>や<来未>は、しばらく、うちには来なかった。
厳密には、うちの前までは来るんだけど、紫音がいる気配がするとそのまま帰ってしまうんだ。
だけど、智香と来未にとっても、椿との時間は安らぎだった。紫音ほどは切羽詰っていなくても、二人にとっても必要な時間だった。
だから二週間と経たずに我慢しきれなくなって、
「こんにちは」
ガレージの方のインターホンを押す。
「どうぞ~♡」
少し間が空いても椿は二人をあたたかく迎え入れる。
「……」
でも、智香と来未は、紫音がいるのを確認すると、明らかに不快そうな気配を放った。
とは言え、二人としても、彼がいることによる不快さよりも、椿から得られる癒しを優先したみたいだね。黙って部屋に上がる。だけど、椿と紫音がしているボードゲームには参加せず、
「これで遊んでていい?」
マグネットシートを手にとって椿に尋ねた。
「うん、いいよ」
椿にそれを拒む理由はないから快く受け入れて、智香と来未は以前のように壁にモザイク模様を作り始め、それと同時に、ボードゲームで遊んでいる椿と紫音の様子を窺っているのが分かる。
だけど、紫音の方は、以前のように自分の思い通りにいかなくても、癇癪を起こす様子はなかった。椿が根気強く彼に付き合ってくれたおかげで、ボードゲームの結果くらいじゃそれほど感情的にならなくてもいいと実感してくれたんだ。
もちろん、負ければいい気はしなくても、癇癪を起こしてすべてを台無しにしなくても済む程度には気にしなくなっていた。
すると、智香と来未も、
「私達もそっちしようかな」
と声を上げる。
もっとも、最初からモザイク模様作りの方にはぜんぜん身が入っていなかったみたいだけどね。
ずっと椿と紫音がボードゲームをしている様子を窺っていたから。
そして、彼が、自分の思い通りの結果が出なくても癇癪を起こさないのを確認できたことで、参加を決意できたんだろう。
この時、紫音の方は逆に二人が参加することを望んでなかったと思う。椿との二人きりの時間を邪魔された気がしたんだろうな。
それでも、彼女の手前、嫌とも言えなかった。
彼は、椿に負けるのは納得できても、それ以外の相手に負けるのはまだ嫌だったんだと思う。椿は、そんな紫音の不満も察してくれていた。
けれど、だからといって手加減をしたり、彼の時だけいい数字が出るまで何度もルーレットを回していいというような<特別扱い>もしなかった。ただただ、
「紫音くん、大丈夫だよ。負けたって大丈夫。何度でもできるから」
そう彼を諭してたのだった。
厳密には、うちの前までは来るんだけど、紫音がいる気配がするとそのまま帰ってしまうんだ。
だけど、智香と来未にとっても、椿との時間は安らぎだった。紫音ほどは切羽詰っていなくても、二人にとっても必要な時間だった。
だから二週間と経たずに我慢しきれなくなって、
「こんにちは」
ガレージの方のインターホンを押す。
「どうぞ~♡」
少し間が空いても椿は二人をあたたかく迎え入れる。
「……」
でも、智香と来未は、紫音がいるのを確認すると、明らかに不快そうな気配を放った。
とは言え、二人としても、彼がいることによる不快さよりも、椿から得られる癒しを優先したみたいだね。黙って部屋に上がる。だけど、椿と紫音がしているボードゲームには参加せず、
「これで遊んでていい?」
マグネットシートを手にとって椿に尋ねた。
「うん、いいよ」
椿にそれを拒む理由はないから快く受け入れて、智香と来未は以前のように壁にモザイク模様を作り始め、それと同時に、ボードゲームで遊んでいる椿と紫音の様子を窺っているのが分かる。
だけど、紫音の方は、以前のように自分の思い通りにいかなくても、癇癪を起こす様子はなかった。椿が根気強く彼に付き合ってくれたおかげで、ボードゲームの結果くらいじゃそれほど感情的にならなくてもいいと実感してくれたんだ。
もちろん、負ければいい気はしなくても、癇癪を起こしてすべてを台無しにしなくても済む程度には気にしなくなっていた。
すると、智香と来未も、
「私達もそっちしようかな」
と声を上げる。
もっとも、最初からモザイク模様作りの方にはぜんぜん身が入っていなかったみたいだけどね。
ずっと椿と紫音がボードゲームをしている様子を窺っていたから。
そして、彼が、自分の思い通りの結果が出なくても癇癪を起こさないのを確認できたことで、参加を決意できたんだろう。
この時、紫音の方は逆に二人が参加することを望んでなかったと思う。椿との二人きりの時間を邪魔された気がしたんだろうな。
それでも、彼女の手前、嫌とも言えなかった。
彼は、椿に負けるのは納得できても、それ以外の相手に負けるのはまだ嫌だったんだと思う。椿は、そんな紫音の不満も察してくれていた。
けれど、だからといって手加減をしたり、彼の時だけいい数字が出るまで何度もルーレットを回していいというような<特別扱い>もしなかった。ただただ、
「紫音くん、大丈夫だよ。負けたって大丈夫。何度でもできるから」
そう彼を諭してたのだった。
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