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第三幕

椿と紫音 その10

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今日も遊びに来た紫音しおんを迎え入れて、

「今日は何して遊ぶ?」

いつもと変わらずに問い掛ける。

すると紫音しおんは、

「……」

黙ったまま、例のボードゲームを指差した。

上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音しおん自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。

だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。

人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、

<すべての事例に当てはまる方法>

というものは存在しない。

結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。

「これでいいの? じゃあやろ」

椿はまず、

『彼の言うことを否定しない』

ことから始めた。

それは、僕とアオが、子供達、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきだけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、あきら恵莉花えりか秋生あきおに対しても普段からしてることだ。

『否定から入らない』

という形でね。その上で、椿は行動するんだ。

紫音しおんと一緒にまたボードゲームを始めて、ルーレットが彼の思う数字を出さなくて苛立ちを募らせ始めたら、

「大丈夫だよ。これはゲームだから。ホントのことじゃないから。紫音しおんくんがホントにヒドイ目に遭うわけじゃないから。今回は上手くいかなくても、上手くいくことだってあるよ」

そう言って彼をなだめた。すると、椿自身、出目が悪くて、その時点で得ていた<お金>を全て失うという目に遭った。

「あやや~! やられちゃった。でもこれで紫音しおんくんの逆転だね」

そのボードゲームは、ゴールのマスに辿り着いた時点での<所持金>が一番多いプレイヤーが勝利というものだったから、僅かでも所持金が残ってる紫音しおんの方が、この時点では椿に勝っていた。

「……!」

『でもこれで紫音しおんくんの逆転だね』

椿つばきにそう言われて、紫音しおんはハッとした様子で彼女を見た。

紫音しおんも決して好調とは言えない状態だったけど、数字の上では椿に比して彼の方が優位に立ってる。

その事実が彼の中で腑に落ちたらしくて、落ち着く気配が伝わってくる。

そう。椿の言う通り、これはただの<ゲーム>だ。現実じゃない。所持金がいくら減ってもすべてを失っても、実際に生活が困窮するわけじゃない。終わってしまえば何度でもやり直せる、ただのゲーム。

もちろん、それが分かったからってすぐに完全に気持ちが切り換えられるわけじゃないのも人間という生き物の特徴だ。ゲームを進めると、また椿が盛り返してきて、再度逆転してしまったんだ。

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