363 / 697
第三幕
椿と紫音 その10
しおりを挟む
今日も遊びに来た紫音を迎え入れて、
「今日は何して遊ぶ?」
いつもと変わらずに問い掛ける。
すると紫音は、
「……」
黙ったまま、例のボードゲームを指差した。
上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。
だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。
人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、
<すべての事例に当てはまる方法>
というものは存在しない。
結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。
「これでいいの? じゃあやろ」
椿はまず、
『彼の言うことを否定しない』
ことから始めた。
それは、僕とアオが、子供達、悠里や安和や椿だけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、洸や恵莉花や秋生に対しても普段からしてることだ。
『否定から入らない』
という形でね。その上で、椿は行動するんだ。
紫音と一緒にまたボードゲームを始めて、ルーレットが彼の思う数字を出さなくて苛立ちを募らせ始めたら、
「大丈夫だよ。これはゲームだから。ホントのことじゃないから。紫音くんがホントにヒドイ目に遭うわけじゃないから。今回は上手くいかなくても、上手くいくことだってあるよ」
そう言って彼をなだめた。すると、椿自身、出目が悪くて、その時点で得ていた<お金>を全て失うという目に遭った。
「あやや~! やられちゃった。でもこれで紫音くんの逆転だね」
そのボードゲームは、ゴールのマスに辿り着いた時点での<所持金>が一番多いプレイヤーが勝利というものだったから、僅かでも所持金が残ってる紫音の方が、この時点では椿に勝っていた。
「……!」
『でもこれで紫音くんの逆転だね』
椿にそう言われて、紫音はハッとした様子で彼女を見た。
紫音も決して好調とは言えない状態だったけど、数字の上では椿に比して彼の方が優位に立ってる。
その事実が彼の中で腑に落ちたらしくて、落ち着く気配が伝わってくる。
そう。椿の言う通り、これはただの<ゲーム>だ。現実じゃない。所持金がいくら減ってもすべてを失っても、実際に生活が困窮するわけじゃない。終わってしまえば何度でもやり直せる、ただのゲーム。
もちろん、それが分かったからってすぐに完全に気持ちが切り換えられるわけじゃないのも人間という生き物の特徴だ。ゲームを進めると、また椿が盛り返してきて、再度逆転してしまったんだ。
「今日は何して遊ぶ?」
いつもと変わらずに問い掛ける。
すると紫音は、
「……」
黙ったまま、例のボードゲームを指差した。
上手くいかなくて癇癪を起したものをわざわざまた選ぶんだ。その意図を推測することはできるけど、たぶん、当の紫音自身、自分が何故それを選んだのかを論理的には説明できないだろうな。
だから、推測するのはあまり意味がない。あくまで、椿や僕が対応策を選定する際の想定として程度のものでしかない。
人間が抱える事情は、一人一人違う。性格も違うし、感じ方も違うし、当人が置かれている状況も違う。だから、
<すべての事例に当てはまる方法>
というものは存在しない。
結局は、一人一人の事情に則した対応を、その場その場で見付けていくしかないんだ。
「これでいいの? じゃあやろ」
椿はまず、
『彼の言うことを否定しない』
ことから始めた。
それは、僕とアオが、子供達、悠里や安和や椿だけじゃなくて、さくらとエンディミオンの子の、洸や恵莉花や秋生に対しても普段からしてることだ。
『否定から入らない』
という形でね。その上で、椿は行動するんだ。
紫音と一緒にまたボードゲームを始めて、ルーレットが彼の思う数字を出さなくて苛立ちを募らせ始めたら、
「大丈夫だよ。これはゲームだから。ホントのことじゃないから。紫音くんがホントにヒドイ目に遭うわけじゃないから。今回は上手くいかなくても、上手くいくことだってあるよ」
そう言って彼をなだめた。すると、椿自身、出目が悪くて、その時点で得ていた<お金>を全て失うという目に遭った。
「あやや~! やられちゃった。でもこれで紫音くんの逆転だね」
そのボードゲームは、ゴールのマスに辿り着いた時点での<所持金>が一番多いプレイヤーが勝利というものだったから、僅かでも所持金が残ってる紫音の方が、この時点では椿に勝っていた。
「……!」
『でもこれで紫音くんの逆転だね』
椿にそう言われて、紫音はハッとした様子で彼女を見た。
紫音も決して好調とは言えない状態だったけど、数字の上では椿に比して彼の方が優位に立ってる。
その事実が彼の中で腑に落ちたらしくて、落ち着く気配が伝わってくる。
そう。椿の言う通り、これはただの<ゲーム>だ。現実じゃない。所持金がいくら減ってもすべてを失っても、実際に生活が困窮するわけじゃない。終わってしまえば何度でもやり直せる、ただのゲーム。
もちろん、それが分かったからってすぐに完全に気持ちが切り換えられるわけじゃないのも人間という生き物の特徴だ。ゲームを進めると、また椿が盛り返してきて、再度逆転してしまったんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~
BIRD
キャラ文芸
【転生者モチ編あらすじ】
異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。
原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。
初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。
転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。
前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。
相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。
その原因は、相方の前世にあるような?
「ニンゲン」によって一度滅びた世界。
二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。
それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。
双子の勇者の転生者たちの物語です。
現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。
画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。
AI生成した画像も合成に使うことがあります。
編集ソフトは全てフォトショップ使用です。
得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。
2024.4.19 モチ編スタート
5.14 モチ編完結。
5.15 イオ編スタート。
5.31 イオ編完結。
8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始
8.21 前世編開始
9.14 前世編完結
9.15 イオ視点のエピソード開始
9.20 イオ視点のエピソード完結
9.21 翔が書いた物語開始
煌めく世界へ、かける虹
麻生 創太
キャラ文芸
ごく普通の高校生・中野 文哉。幼い頃から絵を描くことが大好きな彼は放課後、親友の渡橋 明慶と一緒に街の風景を描く為に散歩へ出かける。その先で青い宝石のついた指輪を見つけた文哉。すると、いきなり正体不明の怪物が出現した。何が起きたのかも分からず絶体絶命となったそのとき、文哉が持っていた指輪が光りだして──。
配達人~奇跡を届ける少年~
禎祥
キャラ文芸
伝えたい想いはありませんか――?
その廃墟のポストに手紙を入れると、どこにでも届けてくれるという。住所のないホームレス、名前も知らない相手、ダムに沈んだ町、天国にすら…。
そんな怪しい噂を聞いた夏樹は、ある人物へと手紙を書いてそのポストへ投函する。そこに込めたのは、ただ純粋な「助けて」という願い。
これは、配達人と呼ばれる少年が巻き起こす奇跡の物語。
表紙画像は毒みるくさん(@poistmil)よりいただきましたFAの香月を使わせていただきました(*´∇`*)
ありがとうございます!
※ツギクルさんにも投稿してます。
第三回ツギクル小説大賞にて優秀賞をいただきました!応援ありがとうございます(=゚ω゚=)ノシ
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~
415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」
普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。
何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。
死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる