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第三幕
椿と紫音 その9
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こうして僕は、椿に紫音のことを任せ、見守ることにした。
でも、もちろん同時に、彼が帰った後、すこし疲れた様子を見せる彼女には、
「お疲れ様」
と声を掛けて、労う。
すると、起きてきたアオが、
「どうしたの? 何かあったの?」
すぐに異変を察してくれた。いつも椿のことを見てるから、少し様子が違ってるだけでも感じ取ってくれるんだ。
そこで、僕が、
「以前話した<紫音>という男の子が、ボードゲームで遊んでいる時に、自分の思うようにならなくて癇癪を起してしまったんだよ」
と説明した。それに、アオは、
「ああ……なるほど」
察してくれた。
アオ自身、紫音のような子の対処は難しいことを承知してくれてる。
だけどその上で、
「でも、私は今んとこ大丈夫だよ」
椿が言うと、
「椿がそう言うんなら、今のところは任せておくけど、もし、無理だと感じたらすぐに私かお父さんに相談してね」
と、返してくれた。
アオも、椿自身が『できる』と思える間は彼女に任せようと考えてくれてるんだ。
正直、他人の家の子供が抱える問題を僕達がこうやって対処しなければいけない理由はまったくない。これは本来、紫音の両親がするべきことだからね。
でも、今回のように紫音の方から椿に助けを求めてきたのなら、それを邪険にするのも忍びない。
椿か紫音のどちらかしか助けられないという状況であれば僕は躊躇うことなく紫音を切り捨て椿を助けるけど、今はそこまで切羽詰まった状況でもない。
加えて、
<自分が望まない面倒事に巻き込まれた時の対処の仕方を学ぶいい機会>
だと考えることもできるからね。
そう考えること自体に眉を顰める人がいるとしても、本来、紫音の両親がするべきことをこちらが対処するわけだから、せめてそのくらいのメリットがあってもいいんじゃないかな。
決して、紫音を傷付けるようなことはしない。むしろ、彼のような事情を抱えた相手をいかに傷付けずに対処するかが狙いなんだ。
「椿、お膝に来る?」
アオが問い掛けると、
「うん♡」
椿は嬉しそうに応えて、アオの膝に座った。
その彼女を、アオが、
「ぎゅーっ!」
と言いながら後ろから抱き締める。
椿はそれに身を任せ、うっとりとアオに体を預ける。
「その紫音って子は、親に、こんな風にしてもらってないんだろうね……」
椿を抱き締めながら、アオは呟くように言った。椿も、
「そうだね……こんな風にしてもらってたら、ボドゲで自分の思うようにならなかったくらいであんなキレなくてもよかったと思う……」
しみじみと応える。
それが彼女の紛れもない実感なんだ。
そしてそれが事実であることを、僕は知っている。
でも、もちろん同時に、彼が帰った後、すこし疲れた様子を見せる彼女には、
「お疲れ様」
と声を掛けて、労う。
すると、起きてきたアオが、
「どうしたの? 何かあったの?」
すぐに異変を察してくれた。いつも椿のことを見てるから、少し様子が違ってるだけでも感じ取ってくれるんだ。
そこで、僕が、
「以前話した<紫音>という男の子が、ボードゲームで遊んでいる時に、自分の思うようにならなくて癇癪を起してしまったんだよ」
と説明した。それに、アオは、
「ああ……なるほど」
察してくれた。
アオ自身、紫音のような子の対処は難しいことを承知してくれてる。
だけどその上で、
「でも、私は今んとこ大丈夫だよ」
椿が言うと、
「椿がそう言うんなら、今のところは任せておくけど、もし、無理だと感じたらすぐに私かお父さんに相談してね」
と、返してくれた。
アオも、椿自身が『できる』と思える間は彼女に任せようと考えてくれてるんだ。
正直、他人の家の子供が抱える問題を僕達がこうやって対処しなければいけない理由はまったくない。これは本来、紫音の両親がするべきことだからね。
でも、今回のように紫音の方から椿に助けを求めてきたのなら、それを邪険にするのも忍びない。
椿か紫音のどちらかしか助けられないという状況であれば僕は躊躇うことなく紫音を切り捨て椿を助けるけど、今はそこまで切羽詰まった状況でもない。
加えて、
<自分が望まない面倒事に巻き込まれた時の対処の仕方を学ぶいい機会>
だと考えることもできるからね。
そう考えること自体に眉を顰める人がいるとしても、本来、紫音の両親がするべきことをこちらが対処するわけだから、せめてそのくらいのメリットがあってもいいんじゃないかな。
決して、紫音を傷付けるようなことはしない。むしろ、彼のような事情を抱えた相手をいかに傷付けずに対処するかが狙いなんだ。
「椿、お膝に来る?」
アオが問い掛けると、
「うん♡」
椿は嬉しそうに応えて、アオの膝に座った。
その彼女を、アオが、
「ぎゅーっ!」
と言いながら後ろから抱き締める。
椿はそれに身を任せ、うっとりとアオに体を預ける。
「その紫音って子は、親に、こんな風にしてもらってないんだろうね……」
椿を抱き締めながら、アオは呟くように言った。椿も、
「そうだね……こんな風にしてもらってたら、ボドゲで自分の思うようにならなかったくらいであんなキレなくてもよかったと思う……」
しみじみと応える。
それが彼女の紛れもない実感なんだ。
そしてそれが事実であることを、僕は知っている。
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