ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第三幕

椿と紫音 その4

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吐いた子の母親も、さすがに警官相手には強く出られなかったらしくて、すごく不満そうな顔をしながらも一緒に救急車に乗って病院へと向かった。

子供の方は、母親が渋っている間に救急隊員がバイタルを取ったところ、発熱が見られて脈拍が百二十と高かったものの意識ははっきりしていて受け答えもできるということで、緊迫した様子はなかったから、それほど重症ってわけでもなかったみたいで僕もホッとしたよ。

朝から複雑な気分にさせられながらも、僕は、恵莉花えりか秋生あきおの方の見守りに向かうことにする。

いつもより遅れたから二人とももう学校についてしまったかもしれないけど、一応、ね。



一方、例の子は、幸い、大きな病気とかじゃなかったらしい。病院に搬送されて診察を受け、結果、軽いウイルス性の胃腸炎と診断され、点滴を受けて体を休ませたらすぐに回復。夕方には家に帰れたそうだ。

ただ、ウイルス性のものだということで、感染予防の観点からも一週間の自宅療養を指示されたにも拘らず、その子の母親は、次の日からもう学校に通わせることに決めていた。

僕はそれを、家の外から窺っていた。やっぱりちょっと気になったからね。

父親が仕事から帰ってきたところに、母親が父親に事の顛末を語ってたんだ。

でも父親の方も、

「お前がちゃんと見てないからだろ……」

子供がウイルス性の胃腸炎を患ったのは母親の監督不足だとして、面倒臭そうにそう言っただけだった。子供を労わる様子も、心配する様子も、まったく伝わってこない。

正直、母親もこの父親には何も期待していないのが察せられてしまったな。この父親に対して望んでいるのは、

『自分達が生活できるようにお金を運んでくること』

だけだというのも分かってしまう。こんな父親だから他の男性に癒しを求めてしまうんだろうなというのも、察せられてしまった。

だけど同時に、こんな母親だから、父親も必要以上に関わりたくないのかもしれない。

もしかすると、お互いに、

<一番、一緒に暮らしてはいけないタイプの相手>

だったのかもしれないね。

そんな両親の下に生まれた子がこれからどうなっていくのか、僕も気にならないわけじゃない。だけど、余所の家庭のことにまで介入はできない。命に関わるようなことならまだしも……

だって僕は、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきの父親なんだ。他の子の父親じゃない。

たとえあの子を救えても、世の中には、きっと同じような境遇にいる子供が数限りなくいるだろうな。

なにしろ、家庭に居場所を実感できずに他人に依存したり、他人を攻撃することで自分を癒したりする人が世の中にどれだけいるの?という話だからね。

僕には、全ての人間を救うことはできない。

それも事実なんだ。

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