上 下
350 / 697
第三幕

楽しい道行じゃなかった

しおりを挟む
確かに、こうやって美しい自然を破壊する人間は、愚かなのかもしれない。そして、

『人間は愚かだ! 排除しなければいけない!』

などと大きな声を上げて暴力に訴えるようなのもまた、確かに人間だ。

吸血鬼の立場でそういう人間達を見ていると、

『人間なんて不要な存在なのでは?』

と思ってしまいそうになるのも、偽らざる印象だったりもする。

けれど、ダヴィトやケテヴァンのように、穏当に問題を解決するために地道な活動をしている人間がいることもまた、事実なんだ。

一部の極端な行動に出る人間だけを見て、

『人間なんて全部死ねばいい』

と考えるのは、論理的じゃないんだよ。それはただの感情論なんだ。

だから僕は、悠里ユーリ安和アンナに、自然を破壊するような人間もいればダヴィトやケテヴァンのような人間もいるという事実を知ってもらいたくて、こうして世界を巡ってるんだ。

PCやスマホの画面の中で見たものだけを<この世のすべて>だとは思ってほしくないんだよ。

特に、悠里と安和は<ダンピール>だから、椿つばき以上に人間のことをよく知ってもらわないといけないんだ。

人間の好ましくない部分については、ジャカルタやトロントやベネズエラの油田での件でも見てきたし、ロシアでは密猟者の話についても聞いた。だからこそ、そんな人間ばかりじゃないということも実際に見てもらいたいんだ。

ダヴィトやケテヴァンは、確かに、分かりやすく華々しいフィクションの中のヒーローのような活躍はしていないかもしれない。でも、そういう形ばかりが必要なわけじゃない。

<地道で堅実な人間の姿>も存在するんだよ。



その後も、何ヶ所かを回り、やはりどこも惨憺たる有様だったのを確認。悠里も安和も、陰鬱な様子でマイクロバスの中に座っていた。

「さすがに疲れたのね」

二人がとても沈んだ表情をしているのを<疲れ>だと判断したケテヴァンが、気遣ってくれる。今は運転を担当しているダヴィトも、

「無理もない。子供にとっては楽しい道行じゃなかっただろうからな」

すっかり日が暮れた真っ暗な道を走らせながら応えた。

「とにかく、今日はもうこれで終わり。お詫びも兼ねて今夜は私達にご馳走させて。娘の一人が務めてるレストランを予約してあるの」

先に聞いていたけれど、改めてそう告げてくれた。

「ありがとうございます」

僕は、悠里と安和の代わりにお礼を述べた。

「本当にいい子ね」

ケテヴァンがすごく優しい笑顔を僕に向けてくれる。

そんな中、悠里と安和は、ようやく舗装路をスムーズに走り始めたマイクロバスに揺られながら、また眠ってしまったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

処理中です...