343 / 697
第三幕
迎え
しおりを挟む
アゼルバイジャンから鉄道でジョージアに入った僕達は、ルスタヴィという街に着く前に列車から飛び降りた。もちろん気配を消した状態だから、人間には悟られないし、目的地まではこうした方が近かったからね。
もっとも、ルドルフとしてはそのままルスタヴィに行けばよかったんだけど、彼の知人に自動車でセルゲイの目的地まで送ってもらうことになっていて、そのためにルドルフにも当面の間、付き合ってもらうことになったんだ。
「すまないな。余計な手間を取らせてしまって」
詫びるセルゲイに、
「構わないさ。どうせ明後日までは休暇だ。僕としても久しぶりに知人と顔を合わせることができるし、一石二鳥というものだよ」
彼は笑顔で応えてくれた。
指定した場所は、どの方向を見ても人間の住んでいる気配がまったく見えない、しかも舗装さえされていない道路だった。むしろ、自動車で何度も通ったことで自然と道のようになっただけの、<獣道のような道>と言った方がいいかもしれない。
「田舎どころの騒ぎじゃないよね、これ。原野じゃん…」
セルゲイに抱かれた安和が苦々し気に呟いた。彼女がそう言うのも無理はない。実際にこの辺りはほとんど人間が住んでいない場所だそうだから。
そして三十分くらい待つと、遠くから自動車のエンジン音が聞こえてきた。ただ、日本のようにかなりの田舎道でも舗装されているわけじゃないかから、スピードはそれほど出ていない。
エンジン音が聞こえ始めてからさらに二十分掛かってようやくその姿が見えてきて、
「おっそいわ!」
安和が思わず声を上げる。日本の感覚に慣れている彼女にすればそう感じるのも無理はないだろうな。
「ははは……」
悠里は苦笑い。
待っている間、悠里はセルゲイと共に近くで昆虫や小動物の観察をしていたから退屈はしなかっただろうけど、安和はね。セルゲイに抱かれてても肝心の彼が昆虫に夢中だったから。
「こんなとこじゃネットも繋がらないし、ゲームもできないじゃん! ぷんすこ!」
さすがにご機嫌斜めだな。
それでも、
「申し訳ございません、姫様」
セルゲイが安和にしっかりと意識を向けて笑顔を見せてくれると、
「まあ、いいけどさ……」
と少しだけ機嫌を直してくれたみたいだ。
さらに、彼が頬にキスをしてくれると、
「うにゅ~……♡」
顔を真っ赤にしてセルゲイに抱き付いた。
そうこうしている間にも、自動車が僕達のところに近付いてきた。マイクロバスと呼ばれるタイプの自動車だった。
ルドルフが手を振ると、自動車を運転している男性と、助手席に乗っていた女性が手を振り返すのが見える。彼の知人が迎えに来てくれたんだ。
もっとも、ルドルフとしてはそのままルスタヴィに行けばよかったんだけど、彼の知人に自動車でセルゲイの目的地まで送ってもらうことになっていて、そのためにルドルフにも当面の間、付き合ってもらうことになったんだ。
「すまないな。余計な手間を取らせてしまって」
詫びるセルゲイに、
「構わないさ。どうせ明後日までは休暇だ。僕としても久しぶりに知人と顔を合わせることができるし、一石二鳥というものだよ」
彼は笑顔で応えてくれた。
指定した場所は、どの方向を見ても人間の住んでいる気配がまったく見えない、しかも舗装さえされていない道路だった。むしろ、自動車で何度も通ったことで自然と道のようになっただけの、<獣道のような道>と言った方がいいかもしれない。
「田舎どころの騒ぎじゃないよね、これ。原野じゃん…」
セルゲイに抱かれた安和が苦々し気に呟いた。彼女がそう言うのも無理はない。実際にこの辺りはほとんど人間が住んでいない場所だそうだから。
そして三十分くらい待つと、遠くから自動車のエンジン音が聞こえてきた。ただ、日本のようにかなりの田舎道でも舗装されているわけじゃないかから、スピードはそれほど出ていない。
エンジン音が聞こえ始めてからさらに二十分掛かってようやくその姿が見えてきて、
「おっそいわ!」
安和が思わず声を上げる。日本の感覚に慣れている彼女にすればそう感じるのも無理はないだろうな。
「ははは……」
悠里は苦笑い。
待っている間、悠里はセルゲイと共に近くで昆虫や小動物の観察をしていたから退屈はしなかっただろうけど、安和はね。セルゲイに抱かれてても肝心の彼が昆虫に夢中だったから。
「こんなとこじゃネットも繋がらないし、ゲームもできないじゃん! ぷんすこ!」
さすがにご機嫌斜めだな。
それでも、
「申し訳ございません、姫様」
セルゲイが安和にしっかりと意識を向けて笑顔を見せてくれると、
「まあ、いいけどさ……」
と少しだけ機嫌を直してくれたみたいだ。
さらに、彼が頬にキスをしてくれると、
「うにゅ~……♡」
顔を真っ赤にしてセルゲイに抱き付いた。
そうこうしている間にも、自動車が僕達のところに近付いてきた。マイクロバスと呼ばれるタイプの自動車だった。
ルドルフが手を振ると、自動車を運転している男性と、助手席に乗っていた女性が手を振り返すのが見える。彼の知人が迎えに来てくれたんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
結婚したくない腐女子が結婚しました
折原さゆみ
キャラ文芸
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。
仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。
本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは?
※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。
主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。
※番外編を随時更新中。
絶世の美女の侍女になりました。
秋月一花
キャラ文芸
十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。
旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。
山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。
女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。
しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。
ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。
後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。
祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。
死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜
まさかの
恋愛
ソフィアは二十歳で死んでしまった。
王太子から婚約破棄されてからは、変な組織に入り、悪の道に進んでしまった。
しかし死ぬ間際に人の心を取り戻して、迷惑を掛けた人たちに謝りながら死んでいった――はずだった!
気付いたら過去に戻っていた!
ソフィアは婚約破棄される当日に戻ってきたと勘違いして、自分から婚約破棄の申し出をしたが、まさかの婚約破棄される日を一年間違えてしまった。
慌てるソフィアに救いの手、新たな婚約を希望する男が現れ、便乗してしまったのが運の尽き。
なんと婚約をしてきたのは未来で、何度も殺そうとしてきた、ドSの武闘派司祭クリストフだった。
なのに未来とは違い、優しく、愛してくれる彼に戸惑いが隠せない
だが彼もなんと未来の記憶を持っているのだった!
いつか殺されてしまう恐怖に怯えるが、彼は一向にそんな素振りをせずに困惑する毎日。
それどころか思わせぶりなことばかりする彼の目的は何!?
私は今回こそは本当に幸せに生きられるのだろうか。
過去の過ちを認め、質素にまじめに生き抜き、甘々な結婚生活を送る、やり直し物語。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
第10話から甘々展開になっていきます。
誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る
月
ファンタジー
癒しの能力を持つコンフォート侯爵家の娘であるシアは、何年経っても能力の発現がなかった。
能力が発現しないせいで辛い思いをして過ごしていたが、ある日突然、フレイアという女性とその娘であるソフィアが侯爵家へとやって来た。
しかも、ソフィアは侯爵家の直系にしか使えないはずの能力を突然発現させた。
——それも、多くの使用人が見ている中で。
シアは侯爵家での肩身がますます狭くなっていった。
そして十八歳のある日、身に覚えのない罪で監獄に幽閉されてしまう。
父も、兄も、誰も会いに来てくれない。
生きる希望をなくしてしまったシアはフレイアから渡された毒を飲んで死んでしまう。
意識がなくなる前、会いたいと願った父と兄の姿が。
そして死んだはずなのに、十年前に時間が遡っていた。
一度目の人生も、二度目の人生も懸命に生きたシア。
自分の力を取り戻すため、家族に愛してもらうため、同じ過ちを繰り返さないようにまた"シアとして"生きていくと決意する。
毎日記念日小説
百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。
窓側後方6つの机くらいのスペースにある。
クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。
それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。
話題は天の声から伝えられる。
外から見られることはない。
そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。
それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。
そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。
その内容を面白おかしく伝える小説である。
基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。
何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。
記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。
毎日が記念日!!
毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。
題材に沿っているとは限りません。
ただ、祝いの気持ちはあります。
記念日って面白いんですよ。
貴方も、もっと記念日に詳しくなりません?
一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。
※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…
エンジニア(精製士)の憂鬱
蒼衣翼
キャラ文芸
「俺の夢は人を感動させることの出来るおもちゃを作ること」そう豪語する木村隆志(きむらたかし)26才。
彼は現在中堅家電メーカーに務めるサラリーマンだ。
しかして、その血統は、人類救世のために生まれた一族である。
想いが怪異を産み出す世界で、男は使命を捨てて、夢を選んだ。……選んだはずだった。
だが、一人の女性を救ったことから彼の運命は大きく変わり始める。
愛する女性、逃れられない運命、捨てられない夢を全て抱えて苦悩しながらも前に進む、とある勇者(ヒーロー)の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる