338 / 697
第三幕
密猟者
しおりを挟む
「僕は、チームのリーダーに、『ヒグマがこちらの様子を窺っているようだ。注意を怠らないでほしい』と告げると、彼は、『承知した』と応えてくれた。油断しない、自然を侮らない、優秀な人物だった。だから僕は、彼のチームに同行することを承諾した。無謀な人間のお守りは大変だからね。
こうして、ヒグマにも警戒しつつ、密猟者を探した。
そして二日目。僕達はついに密猟者を発見した。けれど、それは銃声の後だった。僕達が駆け付けた時には、すでに母熊が撃たれていた。母熊は子を二頭連れていて、子熊達は捕らえられ、檻に入れられていた。たぶん、子熊を餌でおびき出して檻に閉じ込めた後、それを助けようとした母熊を撃ったんだろう。
密猟者達は、その場で母熊の解体を始めようとした。<熊の手>や<熊肝>という形で、それぞれの部位が別々に売れるから、解体した方が運搬も楽になるんだ。
残酷なように思えるかもしれないけど、ヒグマの狩猟そのものは、許可制という形で認められている。その許可を得ず、不法に狩猟を行うことが禁じられているんだ。そうしないと、絶滅するまで狩り尽くすことになるからね。事実、そういう形で、ヒグマが絶滅した地域もある。ヒグマに限らず、人間はこれまで、数多くの種を同じようにして絶滅に追い込んだ。
一人一人の人間はとても非力だけれど、武器や道具を手に集まれば、地球上で人間に敵う生き物はほとんどいない。それこそ、一部のウイルスや昆虫や僕達吸血鬼くらいだろう。
ヒグマがどれほど危険な動物であっても、集団としての人間に比べれば非力なものなんだよ。銃や爆弾ではなく、弓矢しか持たなかった人間でさえ、いくつもの動物を絶滅に追い込んだくらいだからね。
そんな人間が『危険だからあらかじめ駆除しよう』と考えれば、この地球上の多くの生き物が絶滅に追い込まれるのは明らかだ。人間がそれを本気で実行するとなれば、僕達吸血鬼も、危険な人間を駆除しなければならなくなるだろうね。
だから、生きるために命をいただくことはあっても、限度を超えた殺戮となる密漁を認めることはできない。
僕達のチームも、密猟者達を取り押さえるために動いた。
だけど、その時、密猟者達を襲った者がいた。
ヒグマだった。僕達のチームをつけ狙っていたヒグマが、密猟者達に狙いを変えたんだ。僕はそれに気付いていたから、『人間の味を覚えたヒグマがそちらに向かってる! 早く投降してこちらに来るんだ!』と警告したんだけど、密猟者達は、『そんなので騙されるとでも思ってんのか!?』と嘲いながら銃を撃ってきたよ」
こうして、ヒグマにも警戒しつつ、密猟者を探した。
そして二日目。僕達はついに密猟者を発見した。けれど、それは銃声の後だった。僕達が駆け付けた時には、すでに母熊が撃たれていた。母熊は子を二頭連れていて、子熊達は捕らえられ、檻に入れられていた。たぶん、子熊を餌でおびき出して檻に閉じ込めた後、それを助けようとした母熊を撃ったんだろう。
密猟者達は、その場で母熊の解体を始めようとした。<熊の手>や<熊肝>という形で、それぞれの部位が別々に売れるから、解体した方が運搬も楽になるんだ。
残酷なように思えるかもしれないけど、ヒグマの狩猟そのものは、許可制という形で認められている。その許可を得ず、不法に狩猟を行うことが禁じられているんだ。そうしないと、絶滅するまで狩り尽くすことになるからね。事実、そういう形で、ヒグマが絶滅した地域もある。ヒグマに限らず、人間はこれまで、数多くの種を同じようにして絶滅に追い込んだ。
一人一人の人間はとても非力だけれど、武器や道具を手に集まれば、地球上で人間に敵う生き物はほとんどいない。それこそ、一部のウイルスや昆虫や僕達吸血鬼くらいだろう。
ヒグマがどれほど危険な動物であっても、集団としての人間に比べれば非力なものなんだよ。銃や爆弾ではなく、弓矢しか持たなかった人間でさえ、いくつもの動物を絶滅に追い込んだくらいだからね。
そんな人間が『危険だからあらかじめ駆除しよう』と考えれば、この地球上の多くの生き物が絶滅に追い込まれるのは明らかだ。人間がそれを本気で実行するとなれば、僕達吸血鬼も、危険な人間を駆除しなければならなくなるだろうね。
だから、生きるために命をいただくことはあっても、限度を超えた殺戮となる密漁を認めることはできない。
僕達のチームも、密猟者達を取り押さえるために動いた。
だけど、その時、密猟者達を襲った者がいた。
ヒグマだった。僕達のチームをつけ狙っていたヒグマが、密猟者達に狙いを変えたんだ。僕はそれに気付いていたから、『人間の味を覚えたヒグマがそちらに向かってる! 早く投降してこちらに来るんだ!』と警告したんだけど、密猟者達は、『そんなので騙されるとでも思ってんのか!?』と嘲いながら銃を撃ってきたよ」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
あやかしの王子の婚約者に選ばれましたが、見初められるようなことをした記憶がなかったりします
珠宮さくら
キャラ文芸
あやかしの王子の婚約者に突然選ばれることになった三觜天音。どこで見初められたのかもわからないまま、怒涛の日々が待ち受けているとは思いもしなかった。
全22話。
コグマと大虎 ~捨てられたおっさんと拾われた女子高生~
京衛武百十
現代文学
古隈明紀(こぐまあきのり)は、四十歳を迎えたある日、妻と娘に捨てられた。元々好きで結婚したわけでもなくただ体裁を繕うためのそれだったことにより妻や娘に対して愛情が抱けず、それに耐えられなくなった妻に三下り半を突き付けられたのだ。
財産分与。慰謝料なし。養育費は月五万円(半分は妻が負担)という条件の一切を呑んで離婚を承諾。独り身となった。ただし、実は会社役員をしていた妻の方が収入が多かったこともあり、実際はコグマに有利な条件だったのだが。妻としても、自分達を愛してもいない夫との暮らしが耐えられなかっただけで、彼に対しては特段の恨みもなかったのである。
こうして、形の上では家族に捨てられることになったコグマはその後、<パパ活>をしていた女子高生、大戸羅美(おおとらみ)を、家に泊めることになる。コグマ自身にはそのつもりはなかったのだが、待ち合わせていた相手にすっぽかされた羅美が強引に上がり込んだのだ。
それをきっかけに、捨てられたおっさんと拾われた(拾わせた)女子高生の奇妙な共同生活が始まったのだった。
筆者より。
中年男が女子高生を拾って罪に問われずに済むのはどういうシチュエーションかを考えるために書いてみます。
なお、あらかじめ明かしておきますが、最後にコグマと大虎はそれぞれ自分の人生を歩むことになります。
コグマは結婚に失敗して心底懲りてるので<そんな関係>にもなりません。
【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~
BIRD
キャラ文芸
【転生者モチ編あらすじ】
異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。
原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。
初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。
転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。
前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。
相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。
その原因は、相方の前世にあるような?
「ニンゲン」によって一度滅びた世界。
二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。
それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。
双子の勇者の転生者たちの物語です。
現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。
画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。
AI生成した画像も合成に使うことがあります。
編集ソフトは全てフォトショップ使用です。
得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。
2024.4.19 モチ編スタート
5.14 モチ編完結。
5.15 イオ編スタート。
5.31 イオ編完結。
8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始
8.21 前世編開始
9.14 前世編完結
9.15 イオ視点のエピソード開始
9.20 イオ視点のエピソード完結
9.21 翔が書いた物語開始
ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~
415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」
普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。
何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。
死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。
後宮見習いパン職人は、新風を起こす〜九十九(つくも)たちと作る未来のパンを〜
櫛田こころ
キャラ文芸
人間であれば、誰もが憑く『九十九(つくも)』が存在していない街の少女・黄恋花(こう れんか)。いつも哀れな扱いをされている彼女は、九十九がいない代わりに『先読み』という特殊な能力を持っていた。夢を通じて、先の未来の……何故か饅頭に似た『麺麭(パン)』を作っている光景を見る。そして起きたら、見様見真似で作れる特技もあった。
両親を病などで失い、同じように九十九のいない祖母と仲良く麺麭を食べる日々が続いてきたが。隻眼の武官が来訪してきたことで、祖母が人間ではないことを見抜かれた。
『お前は恋花の九十九ではないか?』
見抜かれた九十九が本性を現し、恋花に真実を告げたことで……恋花の生活ががらりと変わることとなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる