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第三幕

将来の夢

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安和アンナはそれからも、自分のサイトの管理をしてた。

そして……

「小説を書き始めたの?」

何気なく目に入ったタブレットの画面に、サイトの管理画面じゃない、テキストがびっしりと並んだそれが表示されてたから、つい、そんな風に問い掛けてた。

「うん。まあ、今はまだ<小説>なんて呼べるものじゃないけどさ。落書きだよ。落書き。でも、いつかは、ママみたいに小説を書けるようになれたらな。って、思ってる……」

「そうか。なら、頑張らないとね。応援してる」

「ありがとう、パパ」

僕は敢えてそれ以上画面を覗き込まないようにして、ただ安和を励まそうと言葉にした。小説の良し悪しは、僕にはよく分からない。いわゆる<文学作品>については著名なものならだいたい読んだことはあっても、アオが書いているようなエンターテイメントに大きく寄せたジャンルのものは、僕にはピンとこないんだ。

僅かに見えた安和のそれも、明らかにアオが書いているものをなぞった文体だったから、それの価値が分からない僕が口を出してもただの<雑音>にしかならないだろうな。

『読者の目線も必要』

と言う人もいるかもしれないけど、そもそもその<読者>にならない僕が見ても、

『文学作品に比べてどうか?』

的な視点でしか見られないし。両方のジャンルを読んだことがあって造詣の深い人間ならまだしも、偏った視点しか僕は持ってないからね。

『<別の視点>で見る』

にしても、もっと適した人がいるだろう。アオの担当であるさくらなんか、それこそ現役の編集者だから、はるかに的確なアドバイスをくれると思う。

「自分で納得のいくものが書けたら、さくらに見てもらうといいだろうね」

「うん。そのつもり。だけど、今は無理かな。今のこれを見てもらってそれでダメ出しされたらやる気失せそうだし」

「なるほど」

確かに、やり始めたばかりの頃にあまり厳しいことを言われたら、やる気がそがれてしまうというのはあると思う。

最初は楽しくできればそれでいい。そして、さらに上の段階を目指すとなれば、その時は覚悟を持って臨むべきだろうな。

安和が本気で小説を書き、アオと同じ道を歩むのなら、厳しい現実に直面することもあるはずだ。それを、一つ一つ、じっくりと乗り越えていけばいい。そうやって実際に挑んでいった経験が、人生には活きると思う。

悠里ユーリは、セルゲイと同じく生き物の研究の道を目指そうとしているようだし、安和にもそれが芽生え始めてきたのかもしれない。

<将来の夢>

と称するにも頼りない、おぼろげなただの<憧れ>に過ぎなくても、最初はたいていそんなものなんだろうね。

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