ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第三幕

回想録 その13 「祈り」

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トナカイが動かなくなったのを見た宗十郎は、右手を自分の首の辺りまで掲げ、指をまっすぐに伸ばし、頭を少し下げて目を瞑った。

<祈り>だ。自身が命を奪ったトナカイに対する祈りだった。命をいただくことに感謝するそれに、僕も手を合わせて祈った。

冷淡なように見えて、でも誠実で真摯な彼の性根が垣間見える。

本当はすごく優しい人間なんだろうな。けれど、<時代>がそれを許してはくれなかった。だから彼は戦争に参加し、その中で多くの命を奪ったんだろう。

そうやって同族同士で殺し合う人間を、僕は心の中では軽蔑していた。

『人間なんて全部<眷属>にしてしまえばいいのに』

本心ではそう思っていた。けれど、こうして宗十郎と一緒に暮らすうちに、一人一人の人間は、必ずしも冷酷で傲慢で独善的なばかりじゃないのかもしれないと思わされるようになっていった。

母が、

「人間だからって悪人ばかりじゃないのよ」

と、なにかにつけて僕にそう語っていた意味が分かる気がした。

そして、仕留めたトナカイに近付き、僕がナイフで大きな動脈を切り裂き<血抜き>を行う。その間、宗十郎は、血の匂いに惹かれてオオカミなどが来ないかを、警戒していた。

もっとも、能力的に考えれば役目は逆の方がいいんだけどね。

人間である宗十郎では、オオカミの群れに襲われれば、対処しきれないから。

だけど、一応は母と僕も人間として振る舞っているから、彼に任せてるんだ。

さらに解体もその場で行う。こうして僕達が食べる分だけを確保して、残りはそこに置いていく。

「オオカミや他の生き物達への供物として、残しておくの」

初めて彼を連れて狩りに出た時、母がそう説明した。

「ああ、分かるよ。俺の故郷でも似たような習慣はあった」

宗十郎も、

『どうして全部持ち帰らないんだ?』

とは言わなかった。

人間は強欲だから、何もかも『自分のものだ!』って考えるものだと思ってた僕は、彼のその反応が意外だった。なにしろ僕はそれまで、子供を殺してまで食べ物や金品を奪う人間を無数に見てたから。

それが<獣>なら別に僕も気にしなかった。だけど、仮にも<知的で理性的な上等な生き物>を自称している人間がそれをすることに、強い嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

でも今は、そう言うのばかりじゃないと思える、宗十郎が本心からこの世界そのものに敬意を払っているのが分かる。

人間の中にも、そうやってわきまえているのがいるんだと、ようやく実感できた気がしたんだ。

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