ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第三幕

回想録 その10 「男同士の話」

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宗十郎は、自分のことは話さないけれど、日本についてはすごくたくさん話してくれた。

「俺の祖父じいさんは、<的屋まとや>をやっててな。縁日があると必ず店を出してたんだ。<的屋まとや>ってのは、こう、客に弓と矢で的を狙わせて、見事、的のいいところに当たれば縁起物や銭をやるっていう遊びでな」

そう言いながら、宗十郎は弓を引く仕草をしてみせた。そして、続けて、

「今のこの手じゃ上手く弓を引けないだろうが、俺も、よく、祖父さんの的屋まとやで遊んでて、その辺の大人にゃ負けない腕前だったんだぜ。でさ、その的屋まとやに<矢取り女やとりめ>って呼ばれてる女性が務めててよ。的のいいところに矢が当たると、太鼓を打ちながら『おお~あたぁ~りぃ~!』って囃してくれるんだ。それがまたいい声で。

実は、その矢取り女の女性が俺が初めて惚れた相手だったんだ。今から思えば『すげえ美人』ってわけでもなかったんだが、なんとも言えねえ雰囲気を持った女性で、言い寄る男も多かったみたいだ。

ただ、小さかった頃は知らなかったんだが、矢取り女自身が、一番の賞品だったそうだ……」

そこまで言ったところで、宗十郎は少し寂しそうな表情になった。彼の話の流れで、僕も<矢取り女やとりめ>の役目も察してしまった。その上で、

「本当は、もうあの頃には禁止されてたそうなんだが、とは言っても、割と昔から続いてきたものだったそうだし、警察の目を盗んで祖父じいさんもそれを続けてたそうだ。

もっとも、祖父じいさんが亡くなったのを機に的屋まとやも廃業したけどな。彼女も、どっかの男のところに嫁いだと風の噂に聞いたよ……」

と、遠い目をした。すると、微妙な表情になった僕を見て、

「おっと、これはミハエルにはちょっと早かったかな」

苦笑いを浮かべた。子供に話すようなことじゃないと思ったんだろうな。僕自身、あまり愉快な話とは思えなかったし。

女性を賞品や景品として出す催し物はどこにでもあるけど、僕としてはそういうのは、正直、軽蔑してたというのもある。

そんな僕の心情を察したのか、宗十郎は、

「ミハエルは優しいな。これからの時代は、お前みたいな男が女にもてるようになるのかもしれない。まあ、そうでなくてもミハエルなら女の方がほっとかないだろうけどな」

と言って、大きく笑った。

でも、そう言う宗十郎も、まさに<快男児>という感じで、女性にはモテそうだったけどね。

そこに、<狩り>に出てた母が帰ってきて、

「なんだか楽しそうね。何の話?」

外にまで笑い声が聞こえてたことで、問い掛けてきた。

もっとも、吸血鬼である母の耳には、それまでの話も、聞こうと思えば聞こえてただろうけどね。

でも、宗十郎は、

「男同士の話だよな」

言いつつ僕の方を見て、ニカっと笑ったのだった。

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