ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第三幕

回想録 その2

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当時のソ連はドイツなどの<枢軸国>とだけ戦争していたわけじゃなかった。公式な記録としては残っていないものも多いみたいだけど、ソ連国内でも、体制に異を唱える人達はいて、そういう人達との<戦争>も、同時に行われてた。

その所為で、だいたいどこに行っても落ち着いて暮らすことはできなかったかな。

人間達もピリピリしていて、余裕がなかったみたいだし。

それでも母は、人間達を憎んだりしなかった。

「私達と彼ら人間とは、別の生き物なの。だから完全に理解し合うことはできない。

ただ、その上で、一部分だけなら、折り合うこともできる。手を取り合うことだってできる。そうやってこの世界の全ての命は生きている。互いに折り合いをつけて生きているの。

ミハエル。あなたにはその事実を知っていてほしい」

母は、何度も僕にそう言って聞かせてくれた。

当時の僕には母の話は難しくてよく理解できないものだったのも事実だけど、僕自身が経験を積み重ねることで、その時の母の言葉が理解できるようになっていった。

一方、父も、母と同じことを考えてはいたけど、人間に対するスタンスはあくまで<科学的興味>が優先されていて、それは、まさしく昆虫学者が昆虫を見ている時のそれに近いものだったと思う。

自分と人間とを、<対等>とは見做してなかったんだ。

だけど、父のその考え方も、今なら理解できる気がするんだ。

だって、吸血鬼と人間は、<別の種>だからね。

<同じ地球上に生きる種>

という意味では吸血鬼と人間は<仲間>ではあっても、それぞれの<命の形>は大きく違う。

かたや限りなく不死に近く、人間が使う武器のほとんどが通用しない吸血鬼と、

かたや精々百年行くかどうかという短い命に加え非力だからこそ一人では生きていけないがゆえに集団で寄り添い合って力を出し合って生きる人間とでは、対等であろうとすることにそもそも無理があるんだ。

生物として圧倒的な強さを持つ吸血鬼の方が人間に合わせないと、上手くはいかない。

人間が吸血鬼に合わせることができない以上は、

<強者の責任>

として、人間に合わせるしかないんだよ。

そしてそれが、吸血鬼自身のためでもある。

この世界の人間を排除して吸血鬼だけの世界を作った方が平和で平穏な世界ができるかもしれない。強いからこそ無駄に争い合う必要のない吸血鬼は、人間のように<数>を必要としないから、爆発的に増えることもない。

だけど、そうじゃないんだ。

『この地球には吸血鬼だけがいればいい』

という考えは、ただの傲慢なんだ。

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