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第二幕
秋生の日常 その14
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<市川美織が正妻の日>の朝、美織は秋生の家まで彼を迎えに行く。
美織の家は学校まで自転車でも二十分の距離があり、自転車通学を行っていた。
一方、秋生は、今の学校を、
『家から近いし公立だから』
というだけの理由で選んだので、徒歩通学である。なのに美織は、自分が<正妻>の日にはわざわざいつもより早く家を出て彼を迎えに行くのだ。
学校に行けば会えるというのに、彼女の中では、
『付き合ってる者同士は、一緒に学校に通うもの』
という認識があり、学校から遠い自分が彼を迎えに行くのが当然と思っているらしかった。
「あ、市川さん。おはよう。いつもいつもありがとうね」
インターホンを鳴らした美織に、玄関を開けてさくらが出迎えてくれた。
「秋生~、市川さんがいらっしゃったよ」
「ああ、今行く」
朝食の片付けをしていた秋生が応える間に、美織はさくらに迎え入れられて玄関の中で待っていた。
真っ直ぐに立ち、行儀よく秋生を待つ彼女を見て、さくらも、
『いい子なんだけど、要領よく生きられないタイプなんだね』
事情はちゃんと理解していて、あたたかく見守ってくれていた。
そう。秋生に対して、市川美織、汐見美登菜、吉祥麗美阿の三人が、
<月城ハーレム>
と称して<ハーレムごっこ>をしていることは知っている。けれど、当事者同士でトラブルになっていないのなら口出しするべきことでもないとして、何も言わないのだ。
もしトラブルになれば人生の先達としてアドバイスをする覚悟もしている。
『ああしろ』『こうしろ』と頭ごなしに命令はしないにせよ、話をよく聞いてヒントを提示し、それでもどうにもならない時には大人として事態の解決に乗り出す準備はしていた。
もっとも、彼女達との関係でそこまで必要になったことはこれまでないけれど。
あと、
「もし我慢できなくなっても、ちゃんと避妊だけはしてね。万が一、赤ちゃんができるようなことがあっても私が協力するから育てる方は心配しなくてもいいけど、先様の事情もあることだから。
本当は、自分で責任が取れるまでは我慢してもらうのが一番だけどね」
とも告げてある。
さすがにこれには秋生も苦笑いを浮かべながら、
「ああ、分かってるよ。大丈夫、自重する」
とは応えてくれた。
秋生も、恵莉花も、二階の<子供部屋>を仕切って個室を用意しもののそこにこもるようなことはなくいつもリビングで家族一緒に過ごし、何でも話ができる関係だった。だから目先の欲求を優先して後先考えないことはしないタイプであることは分かっていても、人間である以上、『つい』ということはある。
そういうことについてもしっかりと想定しているのだった。
美織の家は学校まで自転車でも二十分の距離があり、自転車通学を行っていた。
一方、秋生は、今の学校を、
『家から近いし公立だから』
というだけの理由で選んだので、徒歩通学である。なのに美織は、自分が<正妻>の日にはわざわざいつもより早く家を出て彼を迎えに行くのだ。
学校に行けば会えるというのに、彼女の中では、
『付き合ってる者同士は、一緒に学校に通うもの』
という認識があり、学校から遠い自分が彼を迎えに行くのが当然と思っているらしかった。
「あ、市川さん。おはよう。いつもいつもありがとうね」
インターホンを鳴らした美織に、玄関を開けてさくらが出迎えてくれた。
「秋生~、市川さんがいらっしゃったよ」
「ああ、今行く」
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真っ直ぐに立ち、行儀よく秋生を待つ彼女を見て、さくらも、
『いい子なんだけど、要領よく生きられないタイプなんだね』
事情はちゃんと理解していて、あたたかく見守ってくれていた。
そう。秋生に対して、市川美織、汐見美登菜、吉祥麗美阿の三人が、
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と称して<ハーレムごっこ>をしていることは知っている。けれど、当事者同士でトラブルになっていないのなら口出しするべきことでもないとして、何も言わないのだ。
もしトラブルになれば人生の先達としてアドバイスをする覚悟もしている。
『ああしろ』『こうしろ』と頭ごなしに命令はしないにせよ、話をよく聞いてヒントを提示し、それでもどうにもならない時には大人として事態の解決に乗り出す準備はしていた。
もっとも、彼女達との関係でそこまで必要になったことはこれまでないけれど。
あと、
「もし我慢できなくなっても、ちゃんと避妊だけはしてね。万が一、赤ちゃんができるようなことがあっても私が協力するから育てる方は心配しなくてもいいけど、先様の事情もあることだから。
本当は、自分で責任が取れるまでは我慢してもらうのが一番だけどね」
とも告げてある。
さすがにこれには秋生も苦笑いを浮かべながら、
「ああ、分かってるよ。大丈夫、自重する」
とは応えてくれた。
秋生も、恵莉花も、二階の<子供部屋>を仕切って個室を用意しもののそこにこもるようなことはなくいつもリビングで家族一緒に過ごし、何でも話ができる関係だった。だから目先の欲求を優先して後先考えないことはしないタイプであることは分かっていても、人間である以上、『つい』ということはある。
そういうことについてもしっかりと想定しているのだった。
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