上 下
278 / 697
第二幕

恵莉花の日常 その20

しおりを挟む
恵莉花えりかは、自身の父親であるエンディミオンがかつて<復讐鬼>だったことで復讐がいかにリスキーな行為であるか知ってはいたものの、だからといって復讐を考える者に対して頭ごなしに、

『それはダメだ!』

とは言わなかった。

その辺りについてはアオが散々、復讐について語って聞かせてくれたことと、エンディミオンの性格を考えれば頭ごなしに否定したところでかえって意固地になることは容易に想像できたから言わないようにしていたというのもある。

虐げられてきた者にとっては、被害者にとっては、

『復讐したい!』

と思ってしまうのは当然の感情だということは、恵莉花にも分かる。エンディミオンの境遇をミハエルから聞かされた時には、

「そんなの、復讐して当然じゃん!」

と言ってしまったことさえある。だから実際に苦しめられた者にとっては自然な感情なのだとも実感していた。

けれど、それでも、復讐が実行されれば多くの場合、まったく無関係な人間が巻き添えになる危険性が高いことも、エンディミオンの事例で思い知らされている。

だからこそ、実行されるべきではないことも痛感している。

その一方で、『泣き寝入りは嫌だ!!』と思ってしまうのも当然の反応。

だとしたら、その気持ちを受け止めることで少しでも気持ちを和らげる手伝いをしたい。

ただ単に、

『復讐は犯罪だから許されない!』

ではなくて、苦痛を和らげることで、気持ちが楽になるように力になりたかった。

ただただ泣き寝入りしているだけにならないように心を配りたかった。

無論、世界中の全ての<復讐を願う者>を同じように思いとどまらせることはできなくても、少なくとも自分の親しい者が、無関係な者を巻き添えにして、

『復讐する側から復讐される側になる』

ことは回避したかった。ただでさえ傷付いているのに、そこにさらに<負い目>を背負い込むようなことはしてほしくなったから、できる範囲のことはしたい。

本来なら千華の親がするべきことではあるものの、一方的に頼られるだけだったら無理なものの、恵莉花自身、千華の存在によって救われている部分があるのは事実だから、彼女にも救われてほしい。

単純にそう思う。

自分が両親やアオやミハエルからしてもらってることの、十分の一でも百分の一でもいいからできればと思うのだ。

こうやって親がやらなかったことを他人が負担する形で、それで<最悪の事態>が回避されている。

『家庭環境が悪くても、全員が全員、犯罪者になるわけじゃない』

というのは、結局、<親以外の誰か>のおかげで何とかなっているだけというのが実情だと思われる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラストアーカイヴ

花閂
キャラ文芸
小説内で使用したイラストだったり未使用イラストだったり。 オリジナルイラストのアーカイバ。 連載中の小説『ベスティエン』『マインハール』『ゾルダーテン』のイラストをアーカイブしていきます。

超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太
キャラ文芸
 これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。  挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★  そのルールは単純にて深淵。  対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。  そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!  例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。  まともな勝負だ。  例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。  骨をどうすればいいんだ……  例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」  どんな特級厨師だよ母。  知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!  特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!  敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。  この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?  料理バトルものです。  現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。  実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。  まだまだレベル的には足りませんが……  エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。  パロディ成分多めです。  本作は小説家になろうにも投稿しています。

天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~

B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。 現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。 古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。 そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉ 美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。

裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)
キャラ文芸
とある街にある裏社会の何でも屋『友幸商事』 暗殺から組織の壊滅まで、あなたのご依頼叶えます。 リーダーというよりオカン気質の“幸介” まったり口調で落ち着いた“友弥” やかましさNO.1でも仕事は確実な“ヨウ” マイペースな遊び人の問題児“涼” 笑いあり、熱い絆あり、時に喧嘩ありの賑やか四人組。 さらに癖のある街の住人達も続々登場! 個性的な仲間と織り成す裏社会アクションエンターテイメント! 毎週 水 日の17:00更新 illustration:匡(たすく)さん Twitter:@sakuxptx0116

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。何もかも親に決められ、人形のように生きる日々。 だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、幼い頃に結婚の約束をした結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。しかし、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人のためなら何でもしてしまう一途すぎる執事(ヤンデレ)が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び結月に届くのか。 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー! ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 毎日2話ずつ更新します。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

海の見えるこの町で一杯の幸せを

鈴月詩希
キャラ文芸
主人公、春日井日向は大学を卒業した二十二歳の春、トランクひとつだけを持って、地元を飛び出した。 「そうだ、海の見える町に行こう」 漠然と海の見える、落ち着いた町での生活を求めて、その場所にたどり着いた。 日向は、他の人とは違う眼を持っていた。 日向の眼には、人の『感情』が『色』として視えた。 そして、その眼が原因で、日向は幼い頃から、人との関係に悩み、心を擦り減らしてきていた。 そんな彼女が、海の見える町で仕事を探していると、この町でまことしやかに噂される、神様の話を聞く。 曰く、この町には猫神様がいて、町の人達に幸せをくれる。 曰く、その猫神様が運営する、喫茶店がある。 曰く、その喫茶店は、猫神様に認められた人間しか、店主になれない。 日向はその話を、おとぎ話のようだと思いながら、聞いていると、その喫茶店は実在して、現在は店主『マスター』が不在だという。 「仕事がないなら、猫神様を探しても良いかもね」 冗談半分で言われたその言葉を、頭の片隅に置いて、町を散策していると、一匹の黒猫に出会う。 その黒猫は自らを猫神だと名乗り、猫神達の主を助けて欲しいと持ちかける。 日向の眼の力が役にたつから。と言われた日向は、初めてこの眼が役に立つのなら。とその話を受け入れて、『マスター』になった。 『マスター』は心が弱っている人の、幸せだった頃の記憶を汲み取り、その記憶から、一杯のお茶を淹れる。 そのお茶を飲んだ人は、幸せだった頃の気持ちを取り戻し、辛い現実を乗り切る元気を貰う。 「幸せの一杯、お届けします」 この物語で、一人でも暖かい心になってくださる方が居ることを願って。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

毎日記念日小説

百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。 窓側後方6つの机くらいのスペースにある。 クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。 それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。 話題は天の声から伝えられる。 外から見られることはない。 そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。 それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。 そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。 その内容を面白おかしく伝える小説である。 基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。 何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。 記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。 毎日が記念日!! 毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。 題材に沿っているとは限りません。 ただ、祝いの気持ちはあります。 記念日って面白いんですよ。 貴方も、もっと記念日に詳しくなりません? 一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。 ※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…

処理中です...