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第二幕
恵莉花の日常 その11
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千華とは、中学に上がった頃からの友人だった。
彼女は、新興のIT企業の代表である父親と、中堅アパレルメーカーの役員兼デザイナーである母親との間の第三子かつ長女として生まれた。
しかし両親は忙しくほとんど家にいないため、彼女の世話は実質、ベビーシッターのみの手で行われたという。
だから物心ついたばかりの頃の彼女は、ベビーシッターのことを母親だと思っていたそうだ。そして実の両親のことは、
<時々、家を訪ねてくる、偉そうで嫌な親戚>
だと思っていたようだ。
何しろ、彼女の<母親>に対して実に横柄で横暴な態度で接するのだから。
特に母親は、ベビーシッターが自分の娘に着せている服が、自分の思っている通りのコーディネートでなかったりすると、
「あなた! 私の服を殺すつもり!? どんなセンスしてたらこんな組み合わせにすんの!?」
と、居丈高に叱責するのだ。
千華のために用意された服は全て実の母親がデザインしたもので、どうやら決まった組み合わせで着せなければいけないらしい。
ただ、それは、およそ『子供らしくない』、完全に、
<大人のミニチュア>
としか言いようのないもので、その所為で千華は小学校で浮いた存在となっていた。
だからベビーシッターは、なるべく子供らしくなるようにと、異端視されないようにと、独自の組み合わせで服を着せていたのである。
千華自身は、むしろベビーシッターが考えてくれるコーディネートの方が好きだった。そうじゃない方は、周りから変な目で見られていることを察していたから。
その一方で、さすがに小学校に上がる頃にはその<偉そうな嫌な女>が自分の実の母親であり、母親だと思っていたのはベビーシッターに過ぎないことは理解したものの、<たまにしか帰ってこない偉そうな嫌な女>と、そんな女にひたすら頭を下げるだけで何も言い返せないベビーシッターに苛立ち、学校で問題行動を起こすようになった。
教師の指示に従わず、授業中に勝手に歩き回ったり教室を出て行ったり、気に入らない生徒がいると掴みかかったり、それで教師に叱責されると、学校中に響き渡るような金切り声を上げて激しく反抗したりということを繰り返すようになったのだという。
しかもそれを理由に学校が保護者を呼び出しても来るのはベビーシッターだけで、実の両親は一度も来たことはない。それどころか、父親に至っては、小学校に通ってる間に顔を見たのは、両手の指で足りるくらいしかなかったと記憶している。
そうして千華が荒れる中、ベビーシッターが、突然、別の女性に代わった。
さすがに嫌気が差して逃げたのかと千華も思ったが、実際にはそうではなかったのだった。
彼女は、新興のIT企業の代表である父親と、中堅アパレルメーカーの役員兼デザイナーである母親との間の第三子かつ長女として生まれた。
しかし両親は忙しくほとんど家にいないため、彼女の世話は実質、ベビーシッターのみの手で行われたという。
だから物心ついたばかりの頃の彼女は、ベビーシッターのことを母親だと思っていたそうだ。そして実の両親のことは、
<時々、家を訪ねてくる、偉そうで嫌な親戚>
だと思っていたようだ。
何しろ、彼女の<母親>に対して実に横柄で横暴な態度で接するのだから。
特に母親は、ベビーシッターが自分の娘に着せている服が、自分の思っている通りのコーディネートでなかったりすると、
「あなた! 私の服を殺すつもり!? どんなセンスしてたらこんな組み合わせにすんの!?」
と、居丈高に叱責するのだ。
千華のために用意された服は全て実の母親がデザインしたもので、どうやら決まった組み合わせで着せなければいけないらしい。
ただ、それは、およそ『子供らしくない』、完全に、
<大人のミニチュア>
としか言いようのないもので、その所為で千華は小学校で浮いた存在となっていた。
だからベビーシッターは、なるべく子供らしくなるようにと、異端視されないようにと、独自の組み合わせで服を着せていたのである。
千華自身は、むしろベビーシッターが考えてくれるコーディネートの方が好きだった。そうじゃない方は、周りから変な目で見られていることを察していたから。
その一方で、さすがに小学校に上がる頃にはその<偉そうな嫌な女>が自分の実の母親であり、母親だと思っていたのはベビーシッターに過ぎないことは理解したものの、<たまにしか帰ってこない偉そうな嫌な女>と、そんな女にひたすら頭を下げるだけで何も言い返せないベビーシッターに苛立ち、学校で問題行動を起こすようになった。
教師の指示に従わず、授業中に勝手に歩き回ったり教室を出て行ったり、気に入らない生徒がいると掴みかかったり、それで教師に叱責されると、学校中に響き渡るような金切り声を上げて激しく反抗したりということを繰り返すようになったのだという。
しかもそれを理由に学校が保護者を呼び出しても来るのはベビーシッターだけで、実の両親は一度も来たことはない。それどころか、父親に至っては、小学校に通ってる間に顔を見たのは、両手の指で足りるくらいしかなかったと記憶している。
そうして千華が荒れる中、ベビーシッターが、突然、別の女性に代わった。
さすがに嫌気が差して逃げたのかと千華も思ったが、実際にはそうではなかったのだった。
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