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第二幕

自身の利になる

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『人間はよく<我慢>を重視するものの、必要なのは<我慢>ではなく、自分にとって都合の悪い状況に直面した際、いかに具体的な対処が行えるかである』

と、ミハエルは考えている。

例を挙げるなら、

『小さな交差点で信号に引っかかった時、どうすれば無理なくそれを待つことができるか?』

だろうか。ミハエルは、と言うかアオは、そういう時、

『自分が今、たった数十秒さえ待てないような精神状態かどうかを確認する機会だ』

と捉える。

『信号が変わるまでなど、通常は数十秒から長くて一分少々。命に関わるような状況でもないのにたったそれだけの時間すら待てないような精神状態は、決して健やかではない』

と自己診断するために利用するのだ。

そうして心を落ち着ける。だから我慢などしなくても信号を守ることができる。

自転車に乗って買い物に行った時などに、僅か数メートル十数メートルの距離を歩くのが嫌だからと、『ここには自転車を置かないでください』と書かれた案内を無視して、入り口のすぐ脇、万が一の火災などの際に避難の邪魔にならないようにと余裕を持たせるために確保しているスペースに自転車を置いてしまいそうになったら、それは自分の精神状態が健やかでないと自己診断に利用する。

『いけないいけない。心を穏やかにしなきゃ』

と自分に言い聞かせる。

これも<我慢>などではなく、どこまでいっても、

『心の平穏を保つことは、自身の利になる』

からである。

そして、怖い夢を見ても助けに来てくれる父親を、子供達は信頼している。

『怖い夢を見たくらい我慢しろ!』

とは決して言わない。我慢するには、<我慢できるだけの精神的余裕>が必要だなら。その余裕を作るためには、自分の存在が十分に認められているという実感が必要と考えているから。

加えて、

長男で長子の悠里。

長女で次子の安和。

次女で末っ子の椿。

もうこれだけで前提条件が異なるので、それぞれに対する接し方がまったく同じでいいわけがないのが分かる。

しかも、蒼井家の場合は、

悠里と安和はダンピール。

椿は普通の人間。

という事情も影響してくる。

『自分達はダンピールなのに一番下の妹は普通の人間』

『自分は普通の人間なのに上の二人はダンピールで、兄妹の中で自分だけが違う』

この事実がそれぞれの精神に与える影響を考慮しなければ上手くいかないという事実に、ミハエルとアオは根気強く向き合っている。生半可な忍耐力でできることではないかもしれない。

けれどそれも、

『自分がそうしたいから』

という想いがあるから苦痛なくできているのだった。

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