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第二幕

ミハエルの日常 その5

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吸血鬼であり非常に高い能力を持ち超絶美麗な容姿を持つミハエルでさえ、この世のすべてが上手くいくわけじゃない。そのことについて不平不満を口にしていても、やはり問題は何も解決しない。

そして、自分一人で何もかもを解決できるはずがないことも、理解している。

だからミハエルは急がない。焦らない。感情的にならない。

ただただ自分にできることをするだけ。

人間は基本的に、他人から<説教>されることを嫌う傾向にある。もちろん、中には『説教されるのが好き』という奇特な者もいるにせよ、多数派でないことは火を見るよりも明らかだろう。

なのに、その一方では高圧的に他人に説教、どころか怒鳴りつけて言うことを聞かせればいいと考える者も多い。

自分は説教されたり怒鳴りつけられたりするのは嫌なのに、他人に対してはなぜかそれが通用すると考えるのだ。

こういう風に言われることさえ、

『ムカつく!』

として目を背け耳を塞ぐのに、他人に対しては、

『自分の言うことを聞くべきだ!』

と考える。

実に矛盾している。

けれどミハエルは、その、

『矛盾している』

こと自体が、人間のみならず吸血鬼にも当てはまることを、そもそも<生物>という存在自体に当てはまることを知っている。

なにしろ生物は、

『死ぬために生まれてくる』

のだから。

最終的には絶対に死ぬのに生まれてくるのが生物なのだ。

大変な矛盾。

しかも、人間は、これは吸血鬼もそうだが、最後には死ぬことが分かっているのに幸せになることを望む。

<死という不幸>が結末であることは確定しているのに、幸せになりたいと考える。

これが矛盾でなくてなんなのか。

ゆえにミハエルを含む吸血鬼達は、

『矛盾こそが生物の本質である』

と結論付けている。

水も酸素も、実は生物にとって有害な<毒>でもある。なのに、人間も吸血鬼も水や酸素を使って代謝を行っている(吸血鬼の場合はそれに加えて<力場>そのものである種の代謝を行っていたりもするのだが、これはあくまで副次的なものなのでここでは敢えて慮外とする)。

となれば、矛盾していることを責めても意味がないだろう。

『矛盾がない状態』は、生物として有り得ないのだから。

ただ、自身が矛盾していることを当人が認められなければ、結局、どこまでいっても納得は得られないだろうことも分かる。

いくら他人に対して憤っても、それは問題の解決には繋がらない。憤っている本人が矛盾しているがゆえに。

だから焦らない。結論を急がない。性急に結果を求めない。

他人の子供が自分の注意や忠告を聞き入れなくても当然だと承知している。

それと同時に、悪ふざけが原因で命に関わる大きな怪我をしそうになったなら、自分がそれを回避できる状態であれば、手を貸すことも厭わない。

こうしてミハエルは、悪ふざけしていた子供達が自動車に轢かれそうになったのを、すっと手を差し伸べて救ったのだった。

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