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第二幕

ミハエルの日常 その3

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吸血鬼であり外見上もやっと十一歳くらいの少年という感じのミハエルは、普通に働くということができない。

けれど、実は資産家でもある。

平たく言えば金融資産の運用益が主な収入源だった。

吸血鬼達が人間社会の中で生きるために作り上げたネットワークを通じて書類上だけに存在する架空の人物を作り上げ、その人物名義で株式などを運用している。

もちろん、厳密に言えば人間の法律には触れるものの、そもそも人間の法律は人間の権利を保障するものであって、人間ではない吸血鬼を守ってはくれない。だから彼らは、人間の社会と折り合いをつけるために、敢えてそういう形を取っていた。

いずれ、人間と公式に共存できるようになればその辺りの法整備も行われるかもしれないものの、実現にはまだまだ百年単位の時間が必要だと見られている。

となれば、当然、それまでの間も平穏に暮らしていかなければいけない。

実は、先進国の中にはすでに吸血鬼の存在を把握しているところも少なからずあり、しかし公式にそれを認めることができない事情から、秘密裏に吸血鬼達と接触、人間社会を脅かさないことを条件に、暗黙の了解として見逃されている。

人間の側も、吸血鬼の力は承知しており、あまり彼らを追い詰めて正面切っての衝突に至るのは避けたいとして、黙認という形を取ったのだった。

かつては、

<得体の知れない怪物としての恐怖と嫌悪の対象>

だった吸血鬼も、表に出せない非公式なそれとはいえ様々な研究の結果、<得体の知れない怪物>ではなく、<条件次第では共存も可能な知的生命体>であることが判明してきており、共存に向けての研究も続けられている段階へと移っている。

とは言え、外見こそは大きな差異は見られなくても、生物としての本質はあまりに大きく乖離しており、共通の社会システムの中で<対等な立場>を確保することは決して容易ではないという現実も確かにあるため、長命な吸血鬼側の『解決は急がない』という譲歩もあって、極めて慎重に検討が続けられているところだった。

そんな中、ミハエルも穏やかな人間との共存に資するように自身を律していた。

その一環として、今では、娘である椿つばきの登下校の安全を見守るついでに、登下校中の子供達についても見守っている。

さりとて、登校中の生徒の一人が、交通当番をしていたアオに暴言を浴びせたということもあったとおり、ミハエル一人では全てを見守ることができないのもまた事実。

そもそも、アオ達がいることで大人の目が行き届いているところにミハエルまでいたのでは非効率という事情もある。

こうして今日もミハエルは、どうしても大人達の目が届きにくいところを重点的に、子供達を見守っていたのだった。

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