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第二幕
洸の日常 その4
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『生きる』というのは容易なことじゃない。
そして、何度も言うことだが、自分の思い通りにいくことは実はそんなにないということを忘れてはいけない。
自分の思うとおりになることを<幸せ>だと考えると、おそらく人生は不幸にしかなれないだろう。
『死にたくない』
と願うなら、それは絶対に叶わない願いだし。
数百年、場合によっては千年を超えることもある寿命を持つ吸血鬼でさえ、死は避けられない。
『自分の思い通りにいくことは少ない』
ということを承知の上で『足る』を知れば幸せも掴み易いかもしれない。
そして洸もそれを知る者だった。
自分が人気者でちやほやされること自体は嬉しいもののそれを目的にはしなかった。それよりはむしろ、自分以外の誰かが幸せそうにしているのを見るのが好きだった。
そもそも自分はすでに幸せなので、それ以上を求める必要もない。
また、精神年齢的には幼かったのもあって、誰かと付き合いたいとかそういう欲求も特になかった。
肉体的には成熟してきているので、実はこの時点で子供を作るウェアウルフも少なくないという。
人間として子供を育てるには精神的にあどけなくても、狼として生きるには十分なので。
ただしその場合は、相手もウェアウルフである必要がある。人間との間に子を生すと生まれてくるのはただの人間である可能性もあるからだろう。そういうのもあってか、この時期に人間相手に子を生すウェアウルフは少ないそうだ。
だから洸も特定の女子と付き合うこともなかったと思われる。
彼のファンの女子達も、アイドル的に彼に入れ込んでいるので、あわよくば自分が選ばれることを期待しつつ、けれど洸が特定の誰かのものになることも望んでなかった。
そういう意味では洸は実に<ファン>の期待に応えていただろう。
本人はまったく意図してはいなかったけれど。
それでも、奇跡のようなバランスで洸の高校生活は華やいでいた。
ただその一方で、<困ったタイプ>というのはいつでもどこでもいて、
『月城くんのプライベートには干渉しない』
という、いつの間にか成立していた不文律を破り、自宅にまで押しかける者も何人かはいた。
しかしそういう者達があまりに踏み込むようであればエンディミオンの怒りを買う可能性があったので、そこについてはミハエルも協力した。
夜、こっそりとプレゼントを自宅に届けようとする女子生徒がいると、
「こんばんは」
とミハエルが声を掛けた。
「え…?」
女子生徒が思わず振り返ってもそこには誰もいない。
と言うか、本当はミハエルがいるのだが、気配を消しているので普通の人間には認識できない。
『気のせい……?』
と思った女子生徒が視線を戻すと、また。
「こんばんは」
これを数回繰り返すと、大抵は怯えて逃げ帰ってしまうのだった。
そして、何度も言うことだが、自分の思い通りにいくことは実はそんなにないということを忘れてはいけない。
自分の思うとおりになることを<幸せ>だと考えると、おそらく人生は不幸にしかなれないだろう。
『死にたくない』
と願うなら、それは絶対に叶わない願いだし。
数百年、場合によっては千年を超えることもある寿命を持つ吸血鬼でさえ、死は避けられない。
『自分の思い通りにいくことは少ない』
ということを承知の上で『足る』を知れば幸せも掴み易いかもしれない。
そして洸もそれを知る者だった。
自分が人気者でちやほやされること自体は嬉しいもののそれを目的にはしなかった。それよりはむしろ、自分以外の誰かが幸せそうにしているのを見るのが好きだった。
そもそも自分はすでに幸せなので、それ以上を求める必要もない。
また、精神年齢的には幼かったのもあって、誰かと付き合いたいとかそういう欲求も特になかった。
肉体的には成熟してきているので、実はこの時点で子供を作るウェアウルフも少なくないという。
人間として子供を育てるには精神的にあどけなくても、狼として生きるには十分なので。
ただしその場合は、相手もウェアウルフである必要がある。人間との間に子を生すと生まれてくるのはただの人間である可能性もあるからだろう。そういうのもあってか、この時期に人間相手に子を生すウェアウルフは少ないそうだ。
だから洸も特定の女子と付き合うこともなかったと思われる。
彼のファンの女子達も、アイドル的に彼に入れ込んでいるので、あわよくば自分が選ばれることを期待しつつ、けれど洸が特定の誰かのものになることも望んでなかった。
そういう意味では洸は実に<ファン>の期待に応えていただろう。
本人はまったく意図してはいなかったけれど。
それでも、奇跡のようなバランスで洸の高校生活は華やいでいた。
ただその一方で、<困ったタイプ>というのはいつでもどこでもいて、
『月城くんのプライベートには干渉しない』
という、いつの間にか成立していた不文律を破り、自宅にまで押しかける者も何人かはいた。
しかしそういう者達があまりに踏み込むようであればエンディミオンの怒りを買う可能性があったので、そこについてはミハエルも協力した。
夜、こっそりとプレゼントを自宅に届けようとする女子生徒がいると、
「こんばんは」
とミハエルが声を掛けた。
「え…?」
女子生徒が思わず振り返ってもそこには誰もいない。
と言うか、本当はミハエルがいるのだが、気配を消しているので普通の人間には認識できない。
『気のせい……?』
と思った女子生徒が視線を戻すと、また。
「こんばんは」
これを数回繰り返すと、大抵は怯えて逃げ帰ってしまうのだった。
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