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第二幕

秋生の日常 その7

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大人は、すぐ、

『若いうちはどんどん悩めばいい!』

みたいなことを言う。

けれど、悩んでも悩んでも答が見付からないような事態についての対処法は教えてくれない。

そのくせ、どうしていいのか分からずに子供が間違った選択をすればそれは子供の所為にして自分は責任を取ろうとはせず、反対に、子供が立派になればそれは『自分のおかげ』と手柄にしようとする。

美登菜みとなは、そういう<大人の本性>に気付いてしまったのだ。

そして自分の体を金に換えて、あんな両親の下から逃げ出したかった。

なのに、秋生あきおの傍にいると、秋生の顔を見ていると、秋生の声を聞いていると、秋生の放つ空気に触れていると、そんなことはどうでもいいようにも思えてくる。

だから、たぶん、秋生のために自分の体を売るような真似はしないでおこうと思えた。

そんなこんなで、

「あっき~♡ これどこに入れたらいい~?」

いちいち秋生に甘えようとする。

「……」

一方、そんな美登菜みとなの様子を見て、麗美阿れみあは、内心、ざわついたものを感じながらも、今日は本来、

美登菜みとなが正妻の日』

なので、口出ししないようにしていた。

そしてそんな、麗美阿れみあ美登菜みとな、秋生の姿を見ながら本の整理をしていた美織みおりは、とても嬉しそうだった。

彼女、市川いちかわ美織みおりも、秋生のことは好きだったものの、その気持ちは、麗美阿れみあ美登菜みとなのそれとは少し違っているかもしれない。

彼女はあくまで、麗美阿れみあ美登菜みとなが楽しそうに幸せそうにしているのを間近で見ているのが好きだったから。

たぶん、本当は秋生のこと以上に、麗美阿れみあ美登菜みとなが好きなのだと思われる。



市川いちかわ美織みおりは、実を言うと若干の発達障害を持つ少女だった。

もっとも、<発達障害>と言っても、普通に勉強嫌いでほとんどやらないタイプと比べてもそれほど変わらない程度には学力もあって、一見すると分かりにくいタイプだっただろう。

ただ、彼女は、他人の出す指示が曖昧だと何を言ってるのか理解できず、上手く行動に移せないのだ。

たとえば、小学校の頃に、

「教科書の○ページから○ページまでの問題を解いてください」

という宿題を出されても、それがどの教科のものかが理解できず、全教科のそれを解こうとして結局間に合わず、宿題をやってこないことが多かった。

しかし両親は、娘が宿題をやっている姿は見ているので、教師に、

美織みおりさんがちゃんと宿題をできるように見てあげてもらえますか?」

と言われても、

「いや、家では確かにやってるんですけど……」

と返すしかできなかった。

だが、何度もそういうことがあるので、スクールカウンセラーに相談したところ、

「ひょっとしてお嬢さんには何らかの発達障害があるのでは? 一度、詳しく診断してもらった方がいいかもしれません」

とのアドバイスをもらい受診したことで、軽度の発達障害と診断されたのだった。

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