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第二幕
恵莉花の日常 その3
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「月城さん、ね? 今から美容室行こうよ! オレの顔でロハでやってもらえっから!」
田上はなおもそう言って恵莉花を誘ってくるが、
「ごめんなさい。私、そういうの興味ないから……」
視線を逸らし、淡々と応える。
こういう、自分がいいと思うものを一方的に押し付けてくる人間は本当に迷惑だ。面倒くさい。
とは言え、何を『いい』と思うかは人それぞれなので、
『そんなものの何がいいんだか……』
などと思いつつも口には出さない。恵莉花にとっては<もう一人の母親>同然の蒼井霧雨の作品も万人からは支持されないけれどそれを『いい』と感じてくれる読者がいるという事実を肯定するためには、自分の趣味や好みや感性に合わないからといって『価値がない』と貶すのは好ましくないと、彼女は知っていた。
だから『興味ない』と言いつつも馬鹿にするつもりもない。
なのに田上は、
「いいからいいから、やってみたら分かるって、月城さんVK、VK♡」
とまったく取り合おうとしない。
『こういうのって、陽キャとか陰キャとか関係ないよね。
そういやいたなあ。中学の時。私がオタクだと勝手に決め付けて自分のおススメのアニメ布教しようとしてきたのが……
まあ、園芸に関しちゃ確かにオタクかもだけど……』
恵莉花はそんなことを思い出しつつ、
「ごめんなさい、今日はもう家の手伝いがあるから……」
そう言ってその場を離れようとした。
すると田上は、
「! 待てよ!」
それまでの軽薄で明るい感じだった口調が一瞬で苛立ったものに変わり、恵莉花の腕を掴もうと手を出してきた。
けれど恵莉花はそれをするりと躱す。
実は、小さい頃からウェアウルフである兄の洸に、『家の中で』鬼ごっこなどで遊んでもらっていて、その辺りの体の使い方は鍛えられていたりしたのだ。
捕まりそうになった時に身を躱して逃れるということが。
近所の公園では『大声禁止』なので、思い切り遊べなかったものの、作り手の好き勝手に防音性能を高めまくったりして作られた恵莉花の自宅は、子供達の格好の遊び場だった。
そもそも子供達が外の公園では満足に遊べないという事情を考慮して順次改修が加えられ、無茶苦茶に走り回って遊べるように作られた月城家の家は、ほぼ毎日、嵐のような有様だったという。
階段を転げ落ちたことも一度や二度ではないものの、そのためのクッション材なども貼り付けられていたことで、擦り傷や打ち身程度で済んでいる。
そしてそのおかげで多少の痛い思いもしつつへとへとになるまで遊べて、おそらく、同年代の他の子供達よりもストレスも発散できていたのだった。
それもこれも、さくらとエンディミオンが子供達のためにとしてくれたことである。
田上はなおもそう言って恵莉花を誘ってくるが、
「ごめんなさい。私、そういうの興味ないから……」
視線を逸らし、淡々と応える。
こういう、自分がいいと思うものを一方的に押し付けてくる人間は本当に迷惑だ。面倒くさい。
とは言え、何を『いい』と思うかは人それぞれなので、
『そんなものの何がいいんだか……』
などと思いつつも口には出さない。恵莉花にとっては<もう一人の母親>同然の蒼井霧雨の作品も万人からは支持されないけれどそれを『いい』と感じてくれる読者がいるという事実を肯定するためには、自分の趣味や好みや感性に合わないからといって『価値がない』と貶すのは好ましくないと、彼女は知っていた。
だから『興味ない』と言いつつも馬鹿にするつもりもない。
なのに田上は、
「いいからいいから、やってみたら分かるって、月城さんVK、VK♡」
とまったく取り合おうとしない。
『こういうのって、陽キャとか陰キャとか関係ないよね。
そういやいたなあ。中学の時。私がオタクだと勝手に決め付けて自分のおススメのアニメ布教しようとしてきたのが……
まあ、園芸に関しちゃ確かにオタクかもだけど……』
恵莉花はそんなことを思い出しつつ、
「ごめんなさい、今日はもう家の手伝いがあるから……」
そう言ってその場を離れようとした。
すると田上は、
「! 待てよ!」
それまでの軽薄で明るい感じだった口調が一瞬で苛立ったものに変わり、恵莉花の腕を掴もうと手を出してきた。
けれど恵莉花はそれをするりと躱す。
実は、小さい頃からウェアウルフである兄の洸に、『家の中で』鬼ごっこなどで遊んでもらっていて、その辺りの体の使い方は鍛えられていたりしたのだ。
捕まりそうになった時に身を躱して逃れるということが。
近所の公園では『大声禁止』なので、思い切り遊べなかったものの、作り手の好き勝手に防音性能を高めまくったりして作られた恵莉花の自宅は、子供達の格好の遊び場だった。
そもそも子供達が外の公園では満足に遊べないという事情を考慮して順次改修が加えられ、無茶苦茶に走り回って遊べるように作られた月城家の家は、ほぼ毎日、嵐のような有様だったという。
階段を転げ落ちたことも一度や二度ではないものの、そのためのクッション材なども貼り付けられていたことで、擦り傷や打ち身程度で済んでいる。
そしてそのおかげで多少の痛い思いもしつつへとへとになるまで遊べて、おそらく、同年代の他の子供達よりもストレスも発散できていたのだった。
それもこれも、さくらとエンディミオンが子供達のためにとしてくれたことである。
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