200 / 697
第二幕
恵莉花の日常 その3
しおりを挟む
「月城さん、ね? 今から美容室行こうよ! オレの顔でロハでやってもらえっから!」
田上はなおもそう言って恵莉花を誘ってくるが、
「ごめんなさい。私、そういうの興味ないから……」
視線を逸らし、淡々と応える。
こういう、自分がいいと思うものを一方的に押し付けてくる人間は本当に迷惑だ。面倒くさい。
とは言え、何を『いい』と思うかは人それぞれなので、
『そんなものの何がいいんだか……』
などと思いつつも口には出さない。恵莉花にとっては<もう一人の母親>同然の蒼井霧雨の作品も万人からは支持されないけれどそれを『いい』と感じてくれる読者がいるという事実を肯定するためには、自分の趣味や好みや感性に合わないからといって『価値がない』と貶すのは好ましくないと、彼女は知っていた。
だから『興味ない』と言いつつも馬鹿にするつもりもない。
なのに田上は、
「いいからいいから、やってみたら分かるって、月城さんVK、VK♡」
とまったく取り合おうとしない。
『こういうのって、陽キャとか陰キャとか関係ないよね。
そういやいたなあ。中学の時。私がオタクだと勝手に決め付けて自分のおススメのアニメ布教しようとしてきたのが……
まあ、園芸に関しちゃ確かにオタクかもだけど……』
恵莉花はそんなことを思い出しつつ、
「ごめんなさい、今日はもう家の手伝いがあるから……」
そう言ってその場を離れようとした。
すると田上は、
「! 待てよ!」
それまでの軽薄で明るい感じだった口調が一瞬で苛立ったものに変わり、恵莉花の腕を掴もうと手を出してきた。
けれど恵莉花はそれをするりと躱す。
実は、小さい頃からウェアウルフである兄の洸に、『家の中で』鬼ごっこなどで遊んでもらっていて、その辺りの体の使い方は鍛えられていたりしたのだ。
捕まりそうになった時に身を躱して逃れるということが。
近所の公園では『大声禁止』なので、思い切り遊べなかったものの、作り手の好き勝手に防音性能を高めまくったりして作られた恵莉花の自宅は、子供達の格好の遊び場だった。
そもそも子供達が外の公園では満足に遊べないという事情を考慮して順次改修が加えられ、無茶苦茶に走り回って遊べるように作られた月城家の家は、ほぼ毎日、嵐のような有様だったという。
階段を転げ落ちたことも一度や二度ではないものの、そのためのクッション材なども貼り付けられていたことで、擦り傷や打ち身程度で済んでいる。
そしてそのおかげで多少の痛い思いもしつつへとへとになるまで遊べて、おそらく、同年代の他の子供達よりもストレスも発散できていたのだった。
それもこれも、さくらとエンディミオンが子供達のためにとしてくれたことである。
田上はなおもそう言って恵莉花を誘ってくるが、
「ごめんなさい。私、そういうの興味ないから……」
視線を逸らし、淡々と応える。
こういう、自分がいいと思うものを一方的に押し付けてくる人間は本当に迷惑だ。面倒くさい。
とは言え、何を『いい』と思うかは人それぞれなので、
『そんなものの何がいいんだか……』
などと思いつつも口には出さない。恵莉花にとっては<もう一人の母親>同然の蒼井霧雨の作品も万人からは支持されないけれどそれを『いい』と感じてくれる読者がいるという事実を肯定するためには、自分の趣味や好みや感性に合わないからといって『価値がない』と貶すのは好ましくないと、彼女は知っていた。
だから『興味ない』と言いつつも馬鹿にするつもりもない。
なのに田上は、
「いいからいいから、やってみたら分かるって、月城さんVK、VK♡」
とまったく取り合おうとしない。
『こういうのって、陽キャとか陰キャとか関係ないよね。
そういやいたなあ。中学の時。私がオタクだと勝手に決め付けて自分のおススメのアニメ布教しようとしてきたのが……
まあ、園芸に関しちゃ確かにオタクかもだけど……』
恵莉花はそんなことを思い出しつつ、
「ごめんなさい、今日はもう家の手伝いがあるから……」
そう言ってその場を離れようとした。
すると田上は、
「! 待てよ!」
それまでの軽薄で明るい感じだった口調が一瞬で苛立ったものに変わり、恵莉花の腕を掴もうと手を出してきた。
けれど恵莉花はそれをするりと躱す。
実は、小さい頃からウェアウルフである兄の洸に、『家の中で』鬼ごっこなどで遊んでもらっていて、その辺りの体の使い方は鍛えられていたりしたのだ。
捕まりそうになった時に身を躱して逃れるということが。
近所の公園では『大声禁止』なので、思い切り遊べなかったものの、作り手の好き勝手に防音性能を高めまくったりして作られた恵莉花の自宅は、子供達の格好の遊び場だった。
そもそも子供達が外の公園では満足に遊べないという事情を考慮して順次改修が加えられ、無茶苦茶に走り回って遊べるように作られた月城家の家は、ほぼ毎日、嵐のような有様だったという。
階段を転げ落ちたことも一度や二度ではないものの、そのためのクッション材なども貼り付けられていたことで、擦り傷や打ち身程度で済んでいる。
そしてそのおかげで多少の痛い思いもしつつへとへとになるまで遊べて、おそらく、同年代の他の子供達よりもストレスも発散できていたのだった。
それもこれも、さくらとエンディミオンが子供達のためにとしてくれたことである。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
妻と愛人と家族
春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。
8 愛は決して絶えません。
コリント第一13章4~8節
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。
新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる