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第二幕
濃密な時間
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世の読者達は、十万字ほどの長編小説をどのくらいの時間で読むだろう?
二時間?
三時間?
じっくりと五時間くらいかけて読む読者もいれば、数日にわけて読む人もいるだろう。
アオは基本的に三時間ほどで読み上げるタイプだった。
ということは、こうやって皆で集まって三時間も話をすれば、実は長編小説を一本読んでしまうほどの情報がもたらされるのかもしれない。
まあ、話の内容によるかもしれないが。
けれど、蒼井家も月城家も、こうやって集まれば普段から疑問に思っていることや不平不満などについても話題にして話し合うので、相当、濃密な時間を過ごせているだろう。
自分の考えを述べ、それについて意見をもらう。
こういうことがここでは自然に行われていた。
安和がスマホでネットを見ながら言う。
「自分の気に入らないものに噛み付いて騒ぎ立てるのって、結局、承認欲求のなせる業って気がすんだよね」
「マジそれ。自分の主張に『いいね』してもらいたいからっていう意味にしか思えない」
恵莉花が応えると、秋生も。
「確かに。『世の中を良くしたいと思ってる』って本人が動機を語ってても、あなたの言う<良い世界>って、<自分にとって都合の良い世界>というだけだよね? としか思えないもんね」
「実際、僕達はいろんな国を回ってきていろんな考え方に触れてきたけど、どれもこれも結局は<自分にとって都合の良い世界>を望んでるだけだなっていうのは実感したね。だから、それを実現するには都合の悪いものを排除しようとしたり攻撃したりする。
テロリストやゲリラも、追い詰められて自分達の身を守るために抵抗したっていうのは最初のきっかけだけで、まったく関係ない人を巻き込んだ時点で『自分達の身を守るために抵抗した』なんて言い訳は通らないって感じたよ」
悠里も加わる。
すると椿も、
「自分が気に入らないからって攻撃するとか、テロリストと同じって私も思う」
と。そこに、洸が穏やかに口を開いた。
「僕も、どうして感情的になるのか、それは分からない。自分にとって不愉快なことが何もない世界が素晴らしいんだったら、吸血鬼やダンピールやウェアウルフにとっては人間そのものがいない方がいいっていう話になってしまうからね。
だけど僕は人間がいなくなるのがいいとは思えないんだ。そんなことになったら、さくらも、恵莉花も、秋生も、アオも、椿もいなくならなきゃいけなくなるし。
自分にとって不愉快なことやものがない世界なんて、たぶん有り得ないよ。
僕は、さくらやアオにそれを教えてもらったんだ。そしてみんなもこうやって学べてるのがすごく嬉しい」
二時間?
三時間?
じっくりと五時間くらいかけて読む読者もいれば、数日にわけて読む人もいるだろう。
アオは基本的に三時間ほどで読み上げるタイプだった。
ということは、こうやって皆で集まって三時間も話をすれば、実は長編小説を一本読んでしまうほどの情報がもたらされるのかもしれない。
まあ、話の内容によるかもしれないが。
けれど、蒼井家も月城家も、こうやって集まれば普段から疑問に思っていることや不平不満などについても話題にして話し合うので、相当、濃密な時間を過ごせているだろう。
自分の考えを述べ、それについて意見をもらう。
こういうことがここでは自然に行われていた。
安和がスマホでネットを見ながら言う。
「自分の気に入らないものに噛み付いて騒ぎ立てるのって、結局、承認欲求のなせる業って気がすんだよね」
「マジそれ。自分の主張に『いいね』してもらいたいからっていう意味にしか思えない」
恵莉花が応えると、秋生も。
「確かに。『世の中を良くしたいと思ってる』って本人が動機を語ってても、あなたの言う<良い世界>って、<自分にとって都合の良い世界>というだけだよね? としか思えないもんね」
「実際、僕達はいろんな国を回ってきていろんな考え方に触れてきたけど、どれもこれも結局は<自分にとって都合の良い世界>を望んでるだけだなっていうのは実感したね。だから、それを実現するには都合の悪いものを排除しようとしたり攻撃したりする。
テロリストやゲリラも、追い詰められて自分達の身を守るために抵抗したっていうのは最初のきっかけだけで、まったく関係ない人を巻き込んだ時点で『自分達の身を守るために抵抗した』なんて言い訳は通らないって感じたよ」
悠里も加わる。
すると椿も、
「自分が気に入らないからって攻撃するとか、テロリストと同じって私も思う」
と。そこに、洸が穏やかに口を開いた。
「僕も、どうして感情的になるのか、それは分からない。自分にとって不愉快なことが何もない世界が素晴らしいんだったら、吸血鬼やダンピールやウェアウルフにとっては人間そのものがいない方がいいっていう話になってしまうからね。
だけど僕は人間がいなくなるのがいいとは思えないんだ。そんなことになったら、さくらも、恵莉花も、秋生も、アオも、椿もいなくならなきゃいけなくなるし。
自分にとって不愉快なことやものがない世界なんて、たぶん有り得ないよ。
僕は、さくらやアオにそれを教えてもらったんだ。そしてみんなもこうやって学べてるのがすごく嬉しい」
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