167 / 697
第二幕
覆面作家
しおりを挟む
「その冠井迅って子も、これからどうなるのかねえ……」
さくらを前にして、アオはしみじみそう呟いた。学校との対立がどういう決着を迎えるにしても、たぶんもう、<普通>ではいられないだろう。そういう厄介事を引き起こしたとなれば、周囲もそういう目で見るようになる。
『どんな言いがかりを付けられるか分からない』
そんな風に見られるようになるだろう。
それでは、穏やかでのんびりとした毎日を送ることは難しいに違いない。
アオは、子を持つ親として我が子をそんなことに巻き込みたくはなかった。
以前、アオが交通当番をしていた時に、
『オレがはねられたらお前らの責任だ!』
と罵ってきた男子がいたけれど、それについては、その後、大きな問題にはならなかった。その男子も、愛想は悪いものの、挨拶はしてこないものの、あの時のように罵ってまではこない。
だから現状では<経過観察>という状態のようだ。
その男子の家庭環境が複雑らしいという話もチラッとは聞いたものの、深入りするつもりもないのでそれ以上は詮索しない。
そもそも、女流ラノベ作家<蒼井霧雨>は、決して素顔を出さない、詳細なプロフィールも明かさない<覆面作家>として活動している。
自分がそうやって他人に詮索されたくないのに、他人の事情を詮索するというのもおかしな話だし。
なお、覆面作家となったのは、最初のうちは彼女の両親や兄に知られて邪魔されるのが嫌だったからというのが主な理由だったものの、本名の<桐佐目葵>を反転して蒼井霧雨というペンネームにしていたという安直さからも分かるとおり、本気で隠すつもりはあまりなく、社会的にも著名な作家になれた時には両親や兄には正体を明かして、
「ドヤァ!!」
としてやりたかったという野望も持ってはいた。
けれど、作品はどれも自身の性癖全開、ニッチな層にのみ根強い人気を持つというその作家性から、逆にバカにされるのは間違いないということで明かすのをやめ、かつ、根強いアンチもついていることから、子供達、特に椿に迷惑は掛けたくないということもあって、一切、プロフィールを明かさないことにしている。
なお、学校には<文筆業>とだけ告げ、
「出版社との契約で詳しいことは話せないんです」
ということで詮索されないようにしてあった。
学校側も、生徒の保護者の職業などについては、一切、触れようとはしてこない。
学校で教師と三者面談などをしても、
『どのようなお仕事を?』
的な話題も振ってこない。どうやら、学校として教師に対してもそういう話題は決して振らないようにと釘を刺しているようだ。
教師の側も、話の入り口としてはかつては便利に使われていたそれが今ではどんな地雷を踏むきっかけになるか分からないので、個人的にも避けたいと思っているのがほとんどのようである。
さくらを前にして、アオはしみじみそう呟いた。学校との対立がどういう決着を迎えるにしても、たぶんもう、<普通>ではいられないだろう。そういう厄介事を引き起こしたとなれば、周囲もそういう目で見るようになる。
『どんな言いがかりを付けられるか分からない』
そんな風に見られるようになるだろう。
それでは、穏やかでのんびりとした毎日を送ることは難しいに違いない。
アオは、子を持つ親として我が子をそんなことに巻き込みたくはなかった。
以前、アオが交通当番をしていた時に、
『オレがはねられたらお前らの責任だ!』
と罵ってきた男子がいたけれど、それについては、その後、大きな問題にはならなかった。その男子も、愛想は悪いものの、挨拶はしてこないものの、あの時のように罵ってまではこない。
だから現状では<経過観察>という状態のようだ。
その男子の家庭環境が複雑らしいという話もチラッとは聞いたものの、深入りするつもりもないのでそれ以上は詮索しない。
そもそも、女流ラノベ作家<蒼井霧雨>は、決して素顔を出さない、詳細なプロフィールも明かさない<覆面作家>として活動している。
自分がそうやって他人に詮索されたくないのに、他人の事情を詮索するというのもおかしな話だし。
なお、覆面作家となったのは、最初のうちは彼女の両親や兄に知られて邪魔されるのが嫌だったからというのが主な理由だったものの、本名の<桐佐目葵>を反転して蒼井霧雨というペンネームにしていたという安直さからも分かるとおり、本気で隠すつもりはあまりなく、社会的にも著名な作家になれた時には両親や兄には正体を明かして、
「ドヤァ!!」
としてやりたかったという野望も持ってはいた。
けれど、作品はどれも自身の性癖全開、ニッチな層にのみ根強い人気を持つというその作家性から、逆にバカにされるのは間違いないということで明かすのをやめ、かつ、根強いアンチもついていることから、子供達、特に椿に迷惑は掛けたくないということもあって、一切、プロフィールを明かさないことにしている。
なお、学校には<文筆業>とだけ告げ、
「出版社との契約で詳しいことは話せないんです」
ということで詮索されないようにしてあった。
学校側も、生徒の保護者の職業などについては、一切、触れようとはしてこない。
学校で教師と三者面談などをしても、
『どのようなお仕事を?』
的な話題も振ってこない。どうやら、学校として教師に対してもそういう話題は決して振らないようにと釘を刺しているようだ。
教師の側も、話の入り口としてはかつては便利に使われていたそれが今ではどんな地雷を踏むきっかけになるか分からないので、個人的にも避けたいと思っているのがほとんどのようである。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる