上 下
164 / 697
第二幕

責任転嫁

しおりを挟む
『自分は悪くない!』

冠井迅かむらいじんの父親は、自分に責任があると認めたくないがために、徹底的に自分以外の人間の所為にしてきた。

これまでずっと。

若い頃にも、自動車を運転していて速度違反で取り締まられれば、

「流れに合わせて走っていただけだ。自分は悪くない。実情に合っていない速度制限を設けているのが悪い」

と主張し、不法駐車で取り締まられれば、

「近くに無料の駐車場が設置されていないのが悪い。たった数分の駐車で金を取るのはおかしい」

と主張した。

また、仕事では、顧客からの依頼に対して自身が思い違いをしてトラブルになれば、

「依頼の内容が不明瞭なのが悪い」

と主張し、その一方で、自分が部下に対して曖昧な指示を出したのを部下が誤解して失敗したことで監督責任を問われれば、

「その程度は読み取れるのが当たり前」

と抗弁し、

自分が出した指示が曖昧だったことを改めて指摘されると、

「指示が不明瞭だと思うのならちゃんと確認しないのが悪い」

などと言い出す始末だった。

顧客からの依頼に対して、

『依頼の内容が不明瞭なのが悪い』

と言う一方で、

自分の指示の曖昧さについては、

『ちゃんと確認しないのが悪い』

などと、完全に矛盾していることを自分で気付いていない。

そう、どこまでも、

『悪いのは自分以外の誰か。自分は常に他人のいい加減さの被害者である』

というのが冠井迅かむらいじんの父親の考え方だった。

冠井迅かむらいじんはしっかりとその父親の考え方を学び取っている。

『自分はちゃんと男らしく振舞っている。それに文句を言う奴が悪い』

と。

そのように主張するだけなら、<言論の自由>や<表現の自由>や<思想信条の自由>が認められている以上は自由にすればいいのだろう。

けれど、『主張するのは自由』というのと、『主張が認められる』のとは、まったく別の問題である。

当然、冠井迅かむらいじんの父親の主張を学校の担当弁護士は受け入れることはなかった。

もっとも、弁護士としては、冠井迅かむらいじんの父親が息子の管理監督を徹底し、今後同じような行為をさせないことを誓ってくれれば、今回に限っては和解してもいいと考えていた。

なのに、冠井かむらい家側がその和解の芽を摘み、さらに問題を大きくしたのだ。

こうして、冠井迅かむらいじんの行為は<暴行の非行事実>として家庭裁判所へと持ち込まれ、司法の判断を仰ぐこととなった。

無論、今回の件だけで実際に何らかの刑法上の責任を問われることはないと見られている。せいぜいが、

『もう二度とこのようなことはしない。させない』

などの言質をとり、それをもって幕引きとなるはずだった。

あくまで、『その判断を下すのは司法である』ということをはっきりさせるための手続きに過ぎなかったのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

処理中です...