上 下
154 / 697
第二幕

家族の時間

しおりを挟む
こうして皆でお寿司を堪能して、家に帰って寛いだ。そして時差ボケを修正するために、アオや椿つばきと一緒に寝る。アオも久しぶりの家族一緒の時間だから、今日は仕事は休みだ。

安和アンナはセルゲイと一緒に寝たけれど。

翌朝、帰国するセルゲイに、

「う~…う~……」

と声を上げながら安和は抱き付いていた。離れたくなくてゴネているのだ。

そんな彼女にも、セルゲイはとても優しかった。そっと頭を撫でてくれて、彼女の好きにさせた。

時間が許す限り。

でも、刻限は容赦なく迫る。

「……」

セルゲイがふと時計を見た気配を察し、安和は自分から体を離した。そんな彼女をアオが抱き上げ、そっと包み込む。

「安和はえらいね…」

囁くように声を掛けるアオの胸に顔をうずめ、安和は小さく頷いた。するとセルゲイも、

「また会いに来るよ。安和……」

穏やかに声を掛けてくれる。

こうやってちゃんと自分の気持ちを受け止めてもらえるから、切り替えることもできる。『また会いに来るよ』というセルゲイの言葉が嘘じゃないと分かるから。

空港まで一緒に見送りにいって、登場ゲートに向かうセルゲイを見送って安和は泣いて、飛び立つ飛行機を見送って、また泣いた。

そんな安和を嗤う者は誰もいない。大好きな人と離れるのは誰だって辛い。だから泣きたかったら気が済むまで泣けばいい。

蒼井家は、そういう家庭だった。家族の感情としっかり向き合ってくれる家庭だった。

「じゃあ、帰ろうか……」

セルゲイが乗った飛行機が雲に隠れて見えなくなって、安和がアオの胸に顔をうずめたところで、ミハエルがそう声を掛けた。

「……」

安和はそれに黙って頷く。

こうして家に帰る途中でレストランに立ち寄って食事をした時には、安和もちゃんと笑えるようになっていた。

気が済むまで泣けたからだった。

中途半端に気持ちを抑え付けて悟ったような顔をするから、いつまで経っても踏ん切りがつかない。でも、ちゃんと受け止めてもらえればそれだけ切り替えもしやすくなる。

ただ、それを他人に求めるのは難しいかもしれない。何しろ他人にはそうしなければいけない義務も義理もないから。

対して、アオとミハエルには、それをする理由がある。

『自分達がこの子をこの世に送り出したから』

という理由が。

その責任をしっかりと果たしてくれる両親の姿を見ることで、子供達もそれができるようになっていく。

これが、

『人間を育てるということ』

だとアオもミハエルも考えていた。

親がやらないことを子供にさせようというのはムシがよすぎる。子供に『こうあって欲しい』と思うのなら、親がそれを実践し、手本を示すべきだ。

我が子の感情ときちんと向き合える親になれる大人になって欲しいから、アオとミハエルはそうするのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...