上 下
141 / 697

顔くらい見せろバカ~!

しおりを挟む
なんだかんだでネットワークには接続できるようにしたものの、当然、無線機を介したネット接続では画像すら送れず、音声だけのやり取りとなった。

「まあ、ギアナ高地じゃ仕方ないんだろうけど、顔くらい見せろバカ~!」

と、アオは不機嫌だ。

「ごめんね。愛してる」

ミハエルがそう言ってなだめようとするものの、

「それくらいで誤魔化されるか~っ!」

と返ってくる。でも、その声は本気で怒ってる時のそれじゃないことは、ミハエルだけじゃなく悠里ユーリ安和アンナにも分かった。甘えているだけなんだと。

アオのこういうところは、安和もしっかりと受け継いでいる。

表面上は怒っているように見えて、でもちゃんと相手の言葉には耳を傾ける余裕は残している。自分の素直な感情を表しつつ、でもそれだけじゃない。セルゲイやミハエルがやろうとしていることの意義も理解はしている。その上で家族の心配をしていることも伝えようとしているアオの姿勢から学んだわけだ。

ただただ自分を抑え付けて我慢しているだけでは人間関係は破綻する。自分の気持ちを相手に伝え、そして同時に相手の気持ちも理解しようとすることで初めて上手くいく可能性が高まることを、アオもミハエルも知っていた。

それを、自分達の子供である悠里と安和にも伝えていこうとしているのだろう。

自分の都合ばかり押し付けようとすることで何が起こるかという実例も学びつつ。

ベネズエラでのことも結局はそうだ。政府もゲリラ側も自分達の都合ばかり一方的に押し付けようとしておいて、最初の段階でお互いに相手の話に耳を傾けようとせずに、そのクセ、武力衝突するところまで拗れてから形ばかりの譲歩の姿勢を見せ、それを相手が受け入れないからと、

『話し合いに応じないのは向こうだ!』

と言うためのアリバイ作りにすぎない<話し合う用意があるフリ>をしているだけでしかないという状況なのだと思われる。本気で話し合うつもりがあるのなら最初からするべきだったというのに。

これが、相手が<国家>であればお互いに消耗して国力が削がれることを嫌ってある程度のところで妥協することも考えるのだろうけれど、片方がゲリラやテロリストという、実体など有って無いような、損耗すれば世界のどこからでも、国も地域も人種も関係なしでただ<同じ敵を攻撃したい者>を集めてくればいいだけ、傷付いた味方の補償や支援など放っておけばいいだけのゲリラ組織やテロ組織をいくら叩いたところで妥協を求めてはこないのも当然ではないだろうか。

ましてや背後に大国の思惑がある<代理戦争>のようなものの場合、それこそ大国は自分達の腹は痛まないのだから、いくらでも使い捨てるだろうし。

『とにかく自分の都合や要求をゴリ押すことが正しい』

という考えが何をもたらしたのか、いい加減に気付くべきなのかもしれない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...