ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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戦う理由

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『僕達はボリスを守るために戦うだけ』

それがこの時、ミハエルとセルゲイが戦う理由だった。人間同士の諍いなど、本来、彼らには何の関係もない。放っておいても文句を言われる筋合いでもない。けれど、だからといって自分の<友人>を理不尽に殺されて素知らぬ顔をしていられるほど達観もしていない。

ゆえに、少なくとも自分がここにいる間はボリスの力になる。

それがセルゲイの気持ちであり、そんなセルゲイにミハエルが力を貸すのは自然な流れだった。

しかし同時に、いくら武装していても、素人に毛が生えた程度の訓練しか積んでいないゲリラ風情が何百人集まろうが、純粋な吸血鬼であるセルゲイとミハエルに敵う道理はない。吸血鬼と戦うことを前提として徹底的な準備を行ってきた、本気で鍛え上げられたプロフェッショナルの軍隊が相手であれば命の危険もあるものの、今はその心配もない。

二人がその気になれば一方的に蹂躙することさえ容易だ。それくらいの力の差がある。

となれば、ここまで力の差がある相手をただ痛めつけることをするつもりもない。とにかく攻撃力を奪い、作戦を失敗させることが目的だった。

『ここでゲリラを皆殺しにしておかないと、また狙われるだろ!?』

と主張する者もいるだろう。

だが、冷静に考えてみると分かるはずだ。<世界の警察>を標榜する、世界最強の軍隊を有する大国が徹底的にテロリストの殲滅をこれまでにもずっと図ってきたというのに、テロリストは殲滅できたのか?

その場に参加した者は全員殺害されたとしても、また戦闘員は補充されてやはりテロは起こるではないか。

『皆殺し』など、果たしてどこまですればいいのか? 

テロリストの親兄弟までか? 友人までか? 知人までか? 同じ価値観を信じる者全員か? 同じ血を引く民族までか? どこまで殺せばテロリストは完全にいなくなる?

殺さずに逃がしたテロリストが再び攻撃を仕掛けてくるのも、殺されたテロリストの代わりを補充して攻撃してくるのも、結局は同じではないのか? どちらにしても<理由>がある限り彼らはテロをやめるつもりなどないのだから。

<テロリストの指導者>と呼ばれる人間が殺されてもやはりテロはなくならなかったのは紛れもない現実だ。その指導者が作ったテロ組織さえ、形を変えただけで今もなお存続している。

だからセルゲイもミハエルも、ゲリラを殺すつもりはなかった。ゲリラの攻撃をやめさせるには、やはり<理由>を無くすしかないし、その理由を無くせるのはこの国の人間ではないセルゲイやミハエルではない。

最終的にはこの国を作っている人間自身がその理由を無くしていく以外に問題を解決する道はない。

長命な吸血鬼として、世代交代する人間を見続けてきたがゆえの、結論であった。

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