ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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まるで違う

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「着いたぜ。ここが俺の会社が受け持ってる油田の一つだ。宿舎はもうちょっと先だけどな」

そう言ってボリスが車を止めたのは、荒れ地にぽつんと存在する石油採掘プラントだった。

「……」

「……」

悠里ユーリ安和アンナは言葉もなくそれを見詰めてる。

「ははは。正直言っていいんだぜ。しみったれたプラントだよな」

「あ…いえ、そんな……!」

図星を突かれて慌てて悠里が取り繕うが、ボリスはガハハと笑った。

「いや、しみったれてんのは事実なんだ。今、この国は石油生産にすら力を割けない状態でな。ありものの設備でなんとかするしかないんだ。ここの設備ももうロクに更新できないままで三十年経つ。だから一日のうち半分くらいは修理で動かせねえ有り様だ。

それでも、うちのスタッフは優秀だからな。その程度で済んでる。酷いところだと三日休んで一日動かすなんて感じのところもあるほどだ。おかげで基幹産業のはずの石油産出さえ落ち込んでる。

まったく。おかしいよな。理想の社会を目指して国作りをしたはずなのに、くだらない争いごとにばかり力を注いで肝心の国としての機能は二の次三の次だ。

目的と手段が入れ違っちまってんだよ。

イデオロギーなんてのは、理想の国を作るための手段に過ぎなかったはずだ。それがいつの間にか手段であるはずのイデオロギーを守ることが目的になっちまって、国としてまともに機能しなくなっちまってる……

バカな話だとは思わねえか?」

プラントが稼働している音を聞きながら、ボリスは悠里と安和に語り掛けた。

それは、大人として子供に対して『こんな失敗はするなよ』と教えようとしている言葉だった。

だが、同時に、

「でも、だからってこの国が、どうしようもない、存在する価値もない国だとか言って滅ぼそうとするってのも俺は違うと思ってる。こんな国でも人間は生きてて、それぞれ人生を送ってるんだ。お前らみたいないいとこで暮らしてる奴には分からないかもしれないが、別に無意味ってわけじゃないんだよ。

こういう世界もある。

それだけの話だ」

そう語るボリスの姿は、胸を張り、どっしりと地に足を着けた堂々たるものだった。たとえ洗練されていなくても、間違いなく自分の人生を生きている人間の姿だった。

セルゲイがここに来たのは、悠里と安和をこのボリスに会わせたかったからというのもあった。

日本とはまるで違う価値観。強盗事件など、酔っぱらいが道端でゲロを吐くくらいの頻度で起こり、だからもう警察もその程度の感覚で対処するような社会。

ゲリラも横行し、人間の命が信じられないくらいに安い。

それでも人間は生きている。このボリスのように逞しくそこに根付いて生きている者もいる。

これもまた、人間の姿なのだ。

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