ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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撃たれる覚悟

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ボリスが強盗の手を、掴んでいた拳銃ごと地面に向けて捻ると、『ペキッ』という感触が彼の手に伝わってきた。強盗の手や指の骨が折れる感触だった。握力八十キロを優に超える彼の力であれば、後はちょっとしたコツさえ掴めばその程度のことはまったく造作もなかった。

普段は逆らわないが、今回はセルゲイがいて、しかも確実に突ける隙があったことで容赦はなかった。

ボリス自身、軍属だった時期があり、軍隊式の格闘術も習熟している。しかも、実際に戦争経験者で、その際に人を殺めた経験もある。彼自身は殺戮を楽しむタイプではないものの、その一方でやるとなれば躊躇はない。

「ぎいっ…!」

手にした拳銃を利用してテコの原理でたやすく手の骨を砕かれた強盗は悲鳴を上げて痛みに体を丸め頭を下げた。

瞬間、窓から身を乗り出して強盗の首に丸太のような腕を絡ませつつ肩を掴んで引き、体の向きを百八十度回転させ、その体をドアに引き寄せながら腕で首を締め上げた。的確に頚動脈を圧迫し、ほんの数瞬で意識を失わせる。

ボリスがそちらの強盗を制圧している間に、セルゲイは助手席側の強盗に拳銃を向け、

「動くな! 手を頭に置き、地面に伏せろ!」

と命じた。

強盗は仲間も拳銃も失い、言いなりになるしかなかった。

「わ…分かった! 撃たないでくれ! 言うとおりにするから……!」

そいつは半泣きの状態で言われたとおり頭を手においた状態で地面に膝を突き、伏せた後、すぐまた両手を頭に置いた。

するとセルゲイはドアを開けて自動車を降りながら、

「脚を広げろ! 少しでも動けば容赦なく撃つ!!」

と改めて命じる。

ここまでで僅か数十秒。あまりにも鮮やかな制圧劇に、その場に居合わせたレストランの客が、

「おお~っ!」

歓声を上げた。

しかしセルゲイはそれにはまったく意識を向けることもなく、氷のような冷たい目で強盗を見下ろし、口を開いた。

「お前は、自分が撃たれる覚悟もなく他人に銃を向けるのか?」

そのセルゲイの問い掛けに、強盗は、

「な…なんだよ、自分が撃たれる覚悟なんか持ってる奴がいるかよ……自分が撃たれたくないから銃を使うんじゃねえか。撃たれる前に撃つんだよ。そういうもんだろうが…!」

と、地面に伏せたまま言った。するとセルゲイは、男が僅かに顔を起こして自分に視線を向けたことを確認した上で、自分の肩に銃口を向け、ためらうことなく引き金を引いた。

パン!と乾いた音と共に、

「キャーッ!!」

という悲鳴が上がる。思いがけない光景に、その場にいた傍観者達の表情は凍りつく。

それは地面に伏せた強盗も同じだった。呆気に取られて自分を見上げるそいつに、自分の肩を撃った拳銃を再び向けながら、セルゲイは言う。

「私は、自分が撃たれる覚悟を持っている。だからこうしてお前に拳銃を向けている。私は、この引き金を引くことを躊躇しない……」

その言葉と同時に、強盗の股間に染みが広がっていく。

あまりの恐怖に失禁したからであった。

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