117 / 697
父親に叱られる
しおりを挟む
「大丈夫? ミチホ」
自動車から少し離れたところで美千穂を下ろし、ミハエルがそう穏やかに問い掛けた。
「え…あ……はい……」
突然の出来事にまったく状況が掴めず、ようやくそれだけを応えた美千穂がミハエルを見下ろす。
だがその時、
「このクソがぁ!!」
拳銃をミハエルに握り潰された女が逆上し怒鳴りながら、どこかに隠し持っていたらしい拳銃を取り出して、ミハエルと美千穂に銃口を向けた。
「!!」
しかし、女は引き金を引くことさえできなかった。
運転席の男の頭を押さえ付けていた悠里が咄嗟にその拳銃を叩き落としたからだ。
「ぎ……っ!?」
女は蹴り飛ばされた豚のような悲鳴を上げる。それと同時に、
「……あ…!」
悠里が『しまった!?』と言いたげな表情になった。拳銃を叩き落した瞬間の感触に。
その悠里の手には、はっきりと女の手の骨が砕けるそれが伝わってきてしまったのだ。
「あ、ああ…うあぁ……」
女はまともな言葉にならない呻き声を上げながらうずくまる。
そんな女の様子に、悠里は、
「……ごめん…父さん……」
なんとも言えない、不安のような怯えてるような、少し泣きそうにも見える表情でミハエルを見た。
やりすぎてしまったことを悔いている表情だった。
ダンピールである悠里は、人間とは次元の違う強さを持つ存在である。よほど入念な準備をし、万全の上にも万全を期した体勢を整えてでなければ、人間がダンピールに勝てる道理はない。
だからこそ、ミハエルも、アオも、子供達が力を振るうことについては慎重を期してきた。絶対に負けるはずのない相手を力で抑え付けることをしないように諭してきた。
その両親の言いつけを破ってしまったことを悠里は悔いているのだ。
けれど、そんな息子に対して、ミハエルは言った。
「悠里、今のは、急迫不正の侵害に対してやむを得ず行った対処だ。十分に<正当防衛>に当たると思う。
加えてここは、人間なら司法の判断を仰ぐべきところだけど、なにしろ僕達は人間じゃないからね」
緊迫した状況にはそぐわない穏やかな調子でそう諭す父親に、悠里はホッとした表情を浮かべる。
しかし、その上で、
「でも…」
と付け加える。すると、
「…!」
悠里は体をビクッと竦ませた。その姿は完全に、
<父親に叱られる幼い子供>
のそれだった。
でも、そんな息子の姿に、父親であるミハエルはどこまでも鷹揚なのだった。
「悠里。僕は、咄嗟のことに躊躇わず判断できる君を誇りに思う。でも、だからこそ忘れないで欲しい。その時の自分の判断が適切であったかを客観的に振り返る勇気を持つことを。
自分の行いについて第三者の判断を仰ぐ勇気を持つことを。
力の行使については自分一人の判断で是非を決めてしまうのは危険だということをね」
自動車から少し離れたところで美千穂を下ろし、ミハエルがそう穏やかに問い掛けた。
「え…あ……はい……」
突然の出来事にまったく状況が掴めず、ようやくそれだけを応えた美千穂がミハエルを見下ろす。
だがその時、
「このクソがぁ!!」
拳銃をミハエルに握り潰された女が逆上し怒鳴りながら、どこかに隠し持っていたらしい拳銃を取り出して、ミハエルと美千穂に銃口を向けた。
「!!」
しかし、女は引き金を引くことさえできなかった。
運転席の男の頭を押さえ付けていた悠里が咄嗟にその拳銃を叩き落としたからだ。
「ぎ……っ!?」
女は蹴り飛ばされた豚のような悲鳴を上げる。それと同時に、
「……あ…!」
悠里が『しまった!?』と言いたげな表情になった。拳銃を叩き落した瞬間の感触に。
その悠里の手には、はっきりと女の手の骨が砕けるそれが伝わってきてしまったのだ。
「あ、ああ…うあぁ……」
女はまともな言葉にならない呻き声を上げながらうずくまる。
そんな女の様子に、悠里は、
「……ごめん…父さん……」
なんとも言えない、不安のような怯えてるような、少し泣きそうにも見える表情でミハエルを見た。
やりすぎてしまったことを悔いている表情だった。
ダンピールである悠里は、人間とは次元の違う強さを持つ存在である。よほど入念な準備をし、万全の上にも万全を期した体勢を整えてでなければ、人間がダンピールに勝てる道理はない。
だからこそ、ミハエルも、アオも、子供達が力を振るうことについては慎重を期してきた。絶対に負けるはずのない相手を力で抑え付けることをしないように諭してきた。
その両親の言いつけを破ってしまったことを悠里は悔いているのだ。
けれど、そんな息子に対して、ミハエルは言った。
「悠里、今のは、急迫不正の侵害に対してやむを得ず行った対処だ。十分に<正当防衛>に当たると思う。
加えてここは、人間なら司法の判断を仰ぐべきところだけど、なにしろ僕達は人間じゃないからね」
緊迫した状況にはそぐわない穏やかな調子でそう諭す父親に、悠里はホッとした表情を浮かべる。
しかし、その上で、
「でも…」
と付け加える。すると、
「…!」
悠里は体をビクッと竦ませた。その姿は完全に、
<父親に叱られる幼い子供>
のそれだった。
でも、そんな息子の姿に、父親であるミハエルはどこまでも鷹揚なのだった。
「悠里。僕は、咄嗟のことに躊躇わず判断できる君を誇りに思う。でも、だからこそ忘れないで欲しい。その時の自分の判断が適切であったかを客観的に振り返る勇気を持つことを。
自分の行いについて第三者の判断を仰ぐ勇気を持つことを。
力の行使については自分一人の判断で是非を決めてしまうのは危険だということをね」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる