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父親に叱られる

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「大丈夫? ミチホ」

自動車から少し離れたところで美千穂を下ろし、ミハエルがそう穏やかに問い掛けた。

「え…あ……はい……」

突然の出来事にまったく状況が掴めず、ようやくそれだけを応えた美千穂がミハエルを見下ろす。

だがその時、

「このクソがぁ!!」

拳銃をミハエルに握り潰された女が逆上し怒鳴りながら、どこかに隠し持っていたらしい拳銃を取り出して、ミハエルと美千穂に銃口を向けた。

「!!」

しかし、女は引き金を引くことさえできなかった。

運転席の男の頭を押さえ付けていた悠里ユーリが咄嗟にその拳銃を叩き落としたからだ。

「ぎ……っ!?」

女は蹴り飛ばされた豚のような悲鳴を上げる。それと同時に、

「……あ…!」

悠里が『しまった!?』と言いたげな表情になった。拳銃を叩き落した瞬間の感触に。

その悠里の手には、はっきりと女の手の骨が砕けるそれが伝わってきてしまったのだ。

「あ、ああ…うあぁ……」

女はまともな言葉にならない呻き声を上げながらうずくまる。

そんな女の様子に、悠里は、

「……ごめん…父さん……」

なんとも言えない、不安のような怯えてるような、少し泣きそうにも見える表情でミハエルを見た。

やりすぎてしまったことを悔いている表情だった。

ダンピールである悠里は、人間とは次元の違う強さを持つ存在である。よほど入念な準備をし、万全の上にも万全を期した体勢を整えてでなければ、人間がダンピールに勝てる道理はない。

だからこそ、ミハエルも、アオも、子供達が力を振るうことについては慎重を期してきた。絶対に負けるはずのない相手を力で抑え付けることをしないように諭してきた。

その両親の言いつけを破ってしまったことを悠里は悔いているのだ。

けれど、そんな息子に対して、ミハエルは言った。

「悠里、今のは、急迫不正の侵害に対してやむを得ず行った対処だ。十分に<正当防衛>に当たると思う。

加えてここは、人間なら司法の判断を仰ぐべきところだけど、なにしろ僕達は人間じゃないからね」

緊迫した状況にはそぐわない穏やかな調子でそう諭す父親に、悠里はホッとした表情を浮かべる。

しかし、その上で、

「でも…」

と付け加える。すると、

「…!」

悠里は体をビクッと竦ませた。その姿は完全に、

<父親に叱られる幼い子供>

のそれだった。

でも、そんな息子の姿に、父親であるミハエルはどこまでも鷹揚なのだった。

「悠里。僕は、咄嗟のことに躊躇わず判断できる君を誇りに思う。でも、だからこそ忘れないで欲しい。その時の自分の判断が適切であったかを客観的に振り返る勇気を持つことを。

自分の行いについて第三者の判断を仰ぐ勇気を持つことを。

力の行使については自分一人の判断で是非を決めてしまうのは危険だということをね」

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